
春から初夏にかけて、当サイトでは「ウイスキーの値段が上がる」と予想しました。8月も後半になり振り返ってみると、確かに正規販売店の値上げや、長期熟成ウイスキーを中心に品切れが目立っています。
全てのウイスキーの値段が上がったわけではなく、春先をピークにして二次流通価格が下がり続けている国産ウイスキーも存在します。そこで、現在なにが起こっているのかを、図解にしてまとめてみます。

ウイスキーの価格を左右する原理は主に5つあります。
1.円安と円高の進行
①は最も理解しやすいです。
現在は1ポンド162円ですが、円安が進行して仮に1ポンド=200円になったとします。すると、1ポンド=100円の時と比較して商品の仕入れ価格が2倍以上になってしまいます。
過去に逆のことが発生しました。
実際に2007年には1ポンド=240円でしたが、2011年には119円にまで円高になっています。すると240万円だった商品が119万円で買えることになります。
この影響は「円/ポンド」だけではありません。例えば円/ポンドのレートが変わらないとしても、米ドルや人民元に対して極端に円安が進行すると、日本にある在庫が外国人に買われてしまい国内在庫の値段が上昇します。
逆に円高進行すると、アメリカなどからウイスキーを輸入すると安いので並行輸入で利ざやを得ることができ、国内価格が収まります。
2.流通量の増減
これも分かりやすいです。ウイスキーは少々特殊で、スコッチウイスキーの場合は製造してから早くとも8~12年経たないと製品になりません。最近でこそNAS(ノンエイジ)などビンテージ表記ないものが増えてきましたが、毅然10年以上のシングルモルトが人気です。
ウイスキーには世界的なブームがあり、人気の無い頃に少ししか製造していないと、人気の出たときに流通量が不足します。山崎18年が分かりやすいですが、18~20年前の原酒を用いるので今慌てて作っても、四半世紀経たないと市場で販売できません。
そのため、流通量が多くなれば価格が収まり、需要に対して少ないと価格が上昇します。ウイスキーではありませんが、ワインのロマネ・コンティは世界中の富裕層が買い集めるのに、年間たったの5,000~6,000本しか作ることができないため高級外車価格で売買されているのです。
3.インフレが進行する
これは英国や日本どちらも当てはまります。「英インフレ率が10%突破、40年ぶり高水準-利上げ織り込み加速」3日前のニュースですが、英国のインフレ率が年間10%も上昇しています。
原材料だけでなく、人件費や配送費用、様々なものが値上がりしていきます。昨年100円だったものが110円になるのです。
インフレが進めば、EXW(工場渡)もFAS(輸出港船側渡価格)も全ての値段が上がります。
これに加えて経由国のインフレが進めば、関税や輸送費コストも上昇します。日本も最近は輸送費コストや倉庫の保管料が上昇してきましたが、このように一部の国、または世界的なインフレによってウイスキーの価格が上がります。
4.需要が増加する
少しややこしいのが、この部分です。数値に置き換えることが難しいです。
例えばスコッチウイスキーを例に挙げると、主な市場。英国国内、アメリカやフランス、シンガポール、そこに中国。今は日本市場は中国よりも規模が小さい状況です。
生産できる本数と、それが各国に輸入される本数、価格と需要の折り合い、消費者の購買力、飲食店の消費量など様々な要因によって需要が決まります。
5.資源や原料価格の情報
インフレと重複してしまう部分もありますが、単純に大麦の収穫量が悪かったり、インフレによって大麦の価格が上がった場合。エネルギーコスト、電気代だけでなくガスや燃料など、大麦のフロアモルティングに用いる動力や蒸留するときに用いる動力の価格も、最終的な製品価格に転嫁されます。
2022年夏はどうなった?
私はアナリストでもエコノミストでもないので専門外ですが、相場を見ていた肌感覚でいうと次のようになります。
まず、価格上昇を牽引していた中国市場の需要が急速に低迷しています。低迷しているというのは言葉に語弊があります。先日のニュースのように、中国国内への輸入量や消費量も増えていますが、8月19日にシティ銀行やムーディーズが中国経済格付けを下げたように、少し経済成長が低迷しています。現物投資のコレクターがロレックスやカードゲームなどとともにウイスキーも売りに出ている部分があるそうです。強気相場から反転して、やや売りに転換した状態です。
それでも本当に価値のある、流通量の極少のモノについては価格は横ばいか上昇しています。車の例えですが、フェラーリのF40や365GTB/4、フォードGTなどクラシックカーは台数が少ないため富裕層の需要に支えられています。
同じようにウイスキーでは山崎50年、55年なんかは極少量のため値崩れは起こりにくいです。影響を受けやすいのはアッパーマス層や準富裕層が投資に用いるクラス。つまり山崎12年や18年といった2万円から20万円程度の手の届くボトルが影響を受けます。
最近では精巧な偽物も出ているので、真偽にたいして疑心暗鬼になった人や、資産価値に疑問を持った人が慌てて売っているために相場が下がっているようです。
本来であれば、①~③が上昇してウイスキーの価格が上がるはずですが、肝心の需要、それも牽引していた中国が弱気入りしているために相場がヨコヨコになっています。
インフレや円安人民元高がなければ、もっと下落ダメージを受けていたはずです。S&P500に積立していた人が、今回の暴落でダメージが少なかったのは急激な円安進行だからと言われます。評価額が下がっても為替レートが有利であれば、一見ヨコヨコになるのと原理は同じです。
上記のことから、一見「ウイスキーの値上がりしてなくない?」と思えるのは、黒田砲のような無限買付の買い支えがなくなり、弱まったためといえます。かといって完全な売り優勢になった訳ではありません。
着々とインフレによって価格上昇されていて、一次販売(新品)の店頭価格はジワジワと上昇しています。昨年のカタログを見ると一目瞭然です。
https://twitter.com/whisky_inv/status/1560196722701508608
まだまだ価格は上昇すると思います。
その理由は図解の中の、1.2.3.5がウイスキー価格の上昇側だからです。中国市場では少し需要低迷ですが、マッカランなど元々コレクターに人気のあった銘柄は全く影響を受けていません。
国産ウイスキーや国産新興蒸留所は少し厳しい相場が続く理由が、中国を中心に支えられていたからです。今後も価値の上がるボトル、下がるボトルが混在した難しい相場が続くと思います。
今の相場だと、今日明日での利益を出すのは転売屋でないと難しいです。一部のウイスキーは翌年には200%の上昇を達成など可能かもしれませんが、ピンポイントに当たるかどうかは別です。
とはいっても、このインフレと円安はしばらく継続すると考えられます。長期スパンで2~5年先、できれば10年先の自分のためにコツコツとボトルを買い集めるのを推奨します。
免責事項
当サイトの内容は個人的な推測に基づくもので、内容の完全性や、その正確性を保証するものではありません。ウイスキー投資は法律上の制約や損失が発生する場合があります。必ず自己責任おいて入手・売却等をお願いします。利益が出た場合は、確定申告など税務上の申告が必要になる場合もあります、税理士や税務署職員に相談ください。大量の酒類を個人売買する際には、酒税法上の免許や認可が必要になります。