付き合いのある酒屋の方から、衝撃的な話を聞きました。
「もし、山崎12年や白州12年を持ってるなら、早めに売った方がいいよ」
詳しく話を聞くと、今は品薄のサントリーのシングルモルトですが、来年以降は徐々に安定して流通する予定らしいです。裏付けるかのように2021年の年末には「田舎のスーパーマーケットで山崎18年や白州18年が置かれている!」とSNSでも話題になっていました。
振り返ってみると、ブーム前の2010年頃には山崎12年が税込5,000円でドンキホーテで販売されていましたが、徐々に値上がりをして2015年頃には約9,800円に。
需要に対して供給量が著しく不足していたため、2021年12月現在では、Amazon.co.jp出品が23,065円で販売されています。実に5倍近い値上がりです。
「年数入りウイスキー」を売っても利益の出ない
現在の山崎12年ですが定価が8,500円で、もしサントリーが7掛けで問屋に卸していた場合は約6,000円で納品していることになり、山崎12年を何本売っても儲けが全然出ません。
そこで年数表記がない山崎 NAS ( Non Age Statement )を発売して熟成期間が推定で2~8年の若い原酒をどんどん利用して利益を確保しようとしています。それだけでなく、自社が買収した各国のウイスキー蒸留所をブレンドした「碧Ao」を5,000円でリリース。不人気である海外ウイスキーの過剰在庫を日本風のラベルで販売する手法もまた、サントリーらしい上手なマーケティング方法といえます。
一旦はNASや碧、角瓶など他のウイスキーでの収益化ができていますが、王道とされる山崎や白州、響が転売ウマウマの野放しでは顔が立ちません。
この個人の転売屋による高値推移を崩しにかかるためにも、供給を安定させるのが目下の狙いのようです。任天堂スイッチの増産で市場の価格を抑えるのに似た構造ですね。
2022年以降の国産ウイスキーはどうなる?
そうなると気になるのが2022年のウイスキー投資事情。今、新規参入した人のなかには、こう思っている層がいます。
「山崎や白州を買っておけば、どんどん価格が上がる!資産価値もある」
これは間違いです。もしも現行と同じラベルで、2022年以降に増産された場合は量販店だけでなくスーパーやコンビニにも再び置かれるようになって価値は激減します。流通量にもよりますが、オークションの取引価格が1万円を切ってもおかしくありません。今のファンは知らないかもしれませんが、2008年頃までは普通のセブンイレブンに山崎12年の180mlが2千円以下で販売していました。
サントリーの公式HPで受賞歴を確認すると、「インターナショナル スピリッツ チャレンジ(ISC)」では、2003年に山崎12年 金賞受賞してから2009年、2010年に響や白州が次々と受賞しています。
2012年から2021年に至るまで連続して高評価を得ています。
サントリーは2015年から約60億円を投資して近江エージングセラー(滋賀県東近江市)を増築して保管能力を高めています。4万樽以上もの保管ができるスペースがあり、山崎だけでなく白州、知多のウイスキーなどグループ内のウイスキーを貯蔵しているといわれます。
蒸留所に見学に行くと、貯蔵庫を見ることができますが「意外に小さいな?」と思ったのは当たっているようで、一部の原酒は隣接する貯蔵庫に置き他は近江に集約しているという手法です。サントリーホールディングス株式会社の半期報告書を確認しても、設備の状況にウイスキー原酒貯蔵設備として61億円が計上されています。完成予定は2021年8月と記載されています。
これらの状況から、2010年前後にはコンクール受賞による生産体制の強化と増産を進めていると推測できます。急激に市場の国産ウイスキーが高騰した2015~2021年までは、仕込み時期が低迷期(2000年前後)にかぶっていて特に原酒が枯渇するタイミングです。
2010年頃に増産で仕込まれた樽は、2022年には「12年モノ」としてリリースが可能です。18年以上の安定した供給体制にはまだ数年の時間が必要ですが、来年以降に12年モノがどんどん増産できて流通するであろうと予想できる根拠が上記の理由です。
供給量が上がると値段が下がる?
消費者というのは面白いもので、数量が限られているとブームが起きて白熱しますが供給過多になると熱が覚めるのが特徴です。例えば「ポケモンカード」など、紙を印刷するだけですので低コストで自由に生産量を増やすことができます。10年以上前の貴重なカードでも、同社に著作権があるのでリバイバルと称して再発行することも物理的には可能です。それをしないのはプレミア感を出して消費者を口渇させるという理由にほかになりません。
上がるウイスキーはごく一部
サントリーにも、確実に値段が上がり続けるウイスキーがあります。それは本数が限られているものです。最も有名なのは山崎50年と山崎55年です。
100本限定ということで、中東や中国、香港、東南アジアの富裕層が欲しがるだけで金額が数十倍にもなってしまいます。
中には既に開栓して空き瓶にしてしまっている人もいるはずです。そうなると世の中に存在するボトルは減る一方ですので、自動的にインフレとして価格が上昇する構造になっています。これは年間5,000本前後しか作られないブルゴーニュワインのDRC(ドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティ)にも似ています。人気の銘柄は生産本数が少ないほど上がり続けます。
本数制限のないボトルは下落する可能性を秘めている
山崎12年や18年は本数が多いので、同一のラベルで増産されたら値崩れするのは必須です。今は100万円近い価格の山崎25年でさえ、増産されたら本来の定価に近づく可能性もあります。
その点では、過去に限定リリースされていたビンテージ・モルトは1979年~1995年まで17種類ありますが既に終売していて本数が限られています。1本200万円近くまで高騰しているものもあり、全て1年ずつ揃えればクリスティーズなどのオークションで1億円近いプライスがついてもおかしくありません。
上記の理由から、生産本数が限定されてロックアップされている銘柄については今後じわじわ上がって行く確立は高いですが、量産されている12年・18年を集めるのはリスクが高いと言えます。
偽物ウイスキー集団の登場
二次流通品のウイスキーは、昔から偽物のターゲットとなってきました。マッカラン30年なんかは、イタリア国内のマフィアが関与して数多くフェイクボトルが作られたそうです。
今回のサントリーは中国人の集団による偽物作りが活発なようです。恐ろしい点が、空のボトルに安いバルクウイスキーを再補充するので偽物と本物を判断するのが非常に難しいということです。同じウイスキーでも時期によって色合いは少しずつことなるので、色の濃さで判断するのは難しいです。
現在のサントリーのウイスキーは、ホログラムシールやロットナンバーが無いものがあります。こうなると封印しているフィルムで判断するしかありません。山崎18年以上をターゲットにしているようですが、この偽物の山崎や響、白州の登場で相場が崩れる原因にもなりそうです。
今後上がるパターンはある?
今後も上昇を続けるというパターンもあります。シンプルに、需要に対して増産が追いつかない場合や、年数入りウイスキーがラベルチェンジをして、旧ラベルの値段が上がった場合などです。
個人的な予想では、急激に下るというよりは、最初は「値段が上がりにくい」と実感し、2023年~2025年頃にいきなりドン!と増産された国産ウイスキーが出回り二次流通品が暴落し、国産ウイスキーへの興味関心が低下するのではないかと予想します。