「一番安定したお金の保管方法は何?」と尋ねると、ほとんどの人が「日本円での貯金」と答えるでしょう。未だ多くの人が、日本円の価値が下がっていることに気がついていません。
2010年初頭に1,158円/1gだった純金の価格も7,132円/1gに上昇しました。1円の価格は1円だと思っている人は多いですが、金も1gを手に入れるのに6倍もの日本円が必要になります。ドル円相場は長期で見ると100~120円/USDを推移していますが、アメリカの平均所得は右肩上がりで物価も上昇しています。
ワイン同じことがいえます。ヤフーオークションの相場から一部を抜粋してみます。2005年まで下記のような価格でブルゴーニュワインが取引されていました。
ブルゴーニュワインの取引価格(’05年11月時点)
ドメーヌ・ルロワ ラトリシエール・シャンベルタン’01 38,000 円
メオ・カミュゼ クロドヴージョ’88グレートヴィンテージ 24,000 円
DRC サンヴィヴァン’99(サントリー)グレートビンテージ 45,000 円
DRC リシュブール’96(サントリー)グレートビンテージ 49,000 円
DRC グランエシェゾー’99(サントリー) グレートビンテージ 44,000 円
DRC リシュブール’89 62,000 円
クロ・ド・タール ’95 10,000 円
クロード・デュガ シャルム・シャンベルタン’01 27,000 円
すべて手に入れた場合の費用は「299,000円」
高く感じますか?
では2021年8月時点で、上記の類似ビンテージを入手した場合どうなるでしょうか。
ブルゴーニュワインの取引価格(’21年8月時点)
ドメーヌ・ルロワ ラトリシエール・シャンベルタン’01 1,100,000円
メオ・カミュゼ クロドヴージョ’89 46,750円
DRC サンヴィヴァン’99(サントリー)グレートビンテージ 548,000円
DRC リシュブール’96(サントリー)グレートビンテージ 547,800円
DRC グランエシェゾー’99(サントリー) グレートビンテージ 437,800円
DRC リシュブール’89 1,309,000円
クロ・ド・タール ’95 65,989円
クロード・デュガ シャルム・シャンベルタン’01 82,000 円
これはオークション価格や楽天市場、ワインショップなどの価格から目安を引用してみたので正確な取引価格ではありません。
参考に上記を足してみると総額「4,137,339円」という途方も無い金額になります。16年前に30万円分のワインを購入しておくと、現在の価格からして400万円以上もの金額になった可能性があるのです。
一部のブルゴーニュワインが投資の対象に
鋭い読者の方は、今の金額を見て「ワインの種類によって上昇に差がある」と気づいたことでしょう。ドメーヌ・ルロワやDRC(ドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティ)は10~30倍近い高騰をしているのに、メオ・カミュゼのクロ・ド・ヴージョやクロ・ド・タールは2~6倍にしかなっていません。
メオ・カミュゼはアンリ・ジャイエの後継者の一人、クロ・ド・タールは900年近く一切の分割や譲渡されることなく一人の生産者が所有するモレ・サン・ドニのモノポール(単一畑)で、いずれも価値のあるワインです。
DRCやルロワは欧米諸国や中国、中東の投資対象となっているために異常なまでに高騰しているのです。実際にブルゴーニュの中でも村によって価格の上昇に差があり、ヴォーヌ・ロマネ村とジュブレ・シャンベルタン村の特級畑は高騰が激しいですが、それ以外はまだ緩やかな上昇にすぎない村が多く存在します。
まったく価値が上がらないワインもある
「待てよ、俺の押し入れに昔かった赤ワインがあったような?」
そう思い出して押入れを探しても、たいていの場合「ボジョレー・ヌーヴォー」か「シャブリ」が出てくることでしょう。
これらは1980~1990年代に掛けてワインの御中元やお歳暮の定番になっていて、今も遺品整理などでネットオークションにぞろぞろ出てきます。
当時の日本で流通量の多いボジョレー・ヌーヴォーやシャブリは値段が全く上がらないどころか、1000円以下の二束三文にしかならないこともあるのです。シャブリはコート・ドールではありませんが、ボジョレーヌーボーもシャブリもDRCと同じ「ブルゴーニュワイン」です。
ここで、簡潔になぜ同じブルゴーニュワインでも値上がりに差があるか説明すると「ワインの素性」「村の価値」「生産者の価値」「生産本数」に違いがあるために上記のような現象が起こります。
ボジョレー・ヌーヴォーは、DRCやルロワのように20~30年に渡って長期熟成させるものではなく、ガメイという安くて大量生産できる葡萄を使ってガブ飲みするワインです。大量生産される上に価格も安く、ジュースのように消費されます。一部のクリュ・ボジョレーを除いて20年置いて美味しくなるボジョレー・ヌーヴォーは存在しないといえます。
シャブリも同じようにグラン・クリュで長期熟成に耐えるものはありますが、ほとんどは安価で量産されるもので熟成して価値が出るものではありません。
ボルドーワインはなぜ価値が上がりにくい?
ここで一つの疑問が出てきます。ブルゴーニュワインは一流の生産者であれば価格が数十倍にもなるのに、ボルドーワインが高騰しないのは何故?
フランスワインの王道といえば「ボルドーワイン」と「ブルゴーニュワイン」の2つですが、ボルドーワインは2005年と比較してもあまり高騰していません。
ボルドーワインとブルゴーニュワインの決定的な違いとは?
それは圧倒的な生産量の違いです。テロワールを重視して本数を絞っていくブルゴーニュと異なり、ボルドーは平地で大量に作った葡萄をセパージュによって安定させて品質管理するという、いわば大量生産です。
Wineinvestmentによるとシャトー・ラトゥールは年間に18,000ケース(216,000本)、シャトー・マルゴーは平均で120,000本を生産しています。
DRCのロマネ・コンティですが2017年は7524本、2016年は5281本、2015年は4831本と非常に少ない本数なのです。
ドメーヌでの消費、国賓、修道院にも相当数割当られ、地下セラーにも在庫を残すでしょうから実際に全量が流通するわけでなく、上記の何割か目減りすると考えるのが自然です。そこから欧米諸国、中東とアジアに割り当てされるので日本での流通量も非常に少ないことが容易に想像できます。
有名なブルゴーニュの生産者はいずれも生産量が少ないために、価格高騰の原因となっています。ボルドーでも「シャトー・ル・パン」は年間生産量が約7,000本と極少量のために値段高騰して1本30~40万円というプレミア価格がついています。
安全に投資するならブルゴーニュワイン
冒険してリスクを取るならば、「オーパスワン」などナパ・バレーの名門ワインを集めるのがオススメです。既に投資の対象になって米国の富裕層がバックビンテージを当時の100倍以上の価格で買い漁っています。新大陸のワインも今後、高騰する可能性があります。
安全に投資をするならばフランスワイン、なかでもブルゴーニュが一番良いです。ワインとしての歴史が長く、需要は上がる一方なのに生産数は増えることがないからです。新大陸と異なり、値段が上がる原因がここにあります。
シャブリやボジョレーもブルゴーニュに含まれますが、中でも値段が上がるのが「コート・ド・ニュイ」と「コート・ド・ボーヌ」です。
北はジュブレ・シャンベルタン、南はモンラッシェ、この間のワインが最も投資に適しています。最も有名な村はなんといってもヴォーヌ・ロマネ、あのDRC(ドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティ)の本拠地があり、グラン・クリュは100万円近い価格で取引されるワインもあります。
既に高騰しているように感じるブルゴーニュワインですが、世界的な需要の増加や気候変化、対外的な円の価値の低下など様々な要因で今後更にブルゴーニュワインが高価になっていきます。
今から参入して長期保管用のワインセラーを用意してもお釣りが来るほどに価値が上がる日も遠くはなさそうです。