ひとつ前の記事で流通量・生産数量が絞られている銘柄を狙うと良いということを書きましたが、見落としがちな方法があります。
「本当に高くなるの?」と思うはずですが、これが意外に馬鹿にならないもので、それはオフィシャルのボトルを買っておく方法です。オフィシャルボトルというのは、ウイスキーの蒸留所から公式に発売されるもので、地方のスーパーや近所の酒屋にさえ並んでいるのです。つまり簡単に安く入手が可能です。
2000年前後のマッカランの12年は当時4,000円程度でしたが、今では5~7万円程度で取り引きされています。信じられますか?(※追記 2021年現在 10万円程に上昇しました)
筆者は田舎のジャスコの洋酒コーナーで何度も買ったことがありますが、日本全国どこのスーパーにも並んでいたものが数十年経っただけで10倍以上の価格がついてしまうのです。
なぜ流通量が多いのに上がるのか?
限定数量の商品でもなく、圧倒的に流通量が多く、スーパーで買えたようなウイスキーなのに値段が上がった理由。これは現行品の味の劣化と関係しています。マッカランはウイスキー界のロールスロイスともてはやされ、今では大規模な蒸留所やビジターセンターを設けています。しかし肝心のウイスキーの味は劣化する一方、昔の味とはかけ離れているので当時のボトルの値段が高騰しているのです。もし、現行品の12年と変わりの無い味であれば、価格の差は出ないはずです。
図解は2020年2月の時点でヤフーオークション等を調べたものですが、現行品と比べて熟成年数の同じ12年ボトルが高騰していることが分かります。
写真左の「旧ボトル」この時代が最も評価が高く、2004年10月まで販売されていました。当時は酒販店で12年が3,500円程度でした。それが現在では4~8万円ものプライスが付けられています。
写真中央の2013年にリリースされた旧ボトルでさえも緩やかに上昇しています。これは味が劣化していると指摘されている時代なので、2004~2013年のボトルは当時4~5千円、現在は7千円〜1万円程度です。
ではマッカラン18年はどうでしょうか?当時はボトリングの年数が入っていたので計算は複雑になりますが、定価は12,000円前後でデパートはこの金額でした。2002年頃にはマッカラン18年(1980年)が8,000円程度、それ以外の年数も量販店では6,000円前後、成城石井でさえ7,000円以下で販売していたのです。
では、2020年の相場はどうでしょうか。オークション価格では18年(1980年)が209,000円で落札されています。やはり20倍近い価格に化けています。(※2021年時点で400,000円まで更に高騰しています。)
旧ボトルの流通量が少ないからといって、現行品の10倍近いプライスが付くのは異常事態です。現行の18年が28,980円で楽天市場やアマゾンで大量に販売されている事を考えると、いかに過去のマッカラン18年の評価が高かったか分かります。
投機対象になってから上昇は緩やかか?
マッカランは2014年秋から2017年まで蒸留所を閉鎖して、新しい蒸留所とビジターセンターを作りました。ザ・マッカラン1824シリーズであるアンバー、シエナ、ルビーなどノンエイジ(年数表記なし)を立て続けにリリースして、カスクストレングスやクラシックカットなどの年数のない限定品も販売しています。
しかし2000年前後に貯蔵する高品質なシェリー樽が枯渇したと言われていて、実際に近年の限定品については価格の上昇が緩やかです。これには投機対象や生産量が上がったという理由もありますが、味の劣化のためにマニアがマッカランに価値を見いださなくなったということもあります。
【追記2021年4月11日】
原因は不明ですが、2020年には8万円だったマッカランのカスクストレングスが157,000円と信じられないほどに高騰しています……。
私自身5本以上飲んでいたのですが、今所有しているのは2~3本しか無く悔やまれるところです。当時投げ売りの7,000円で買ったものがここまで上がるとは思いませんでした。
「美味しい時代を求める」から上がる?
マッカランのケースでは昔のボトルが美味しいので、「多少高くても再度飲みたい」という心理の元で価格が上がります。もう一つの理由が、「当時の味がどんなものだったかな?」という心理です。これは1980年代のボウモアなどが顕著で、ウイスキー愛好家の間では「化粧香(パヒューム香)がして美味しくない」「とても飲めない」と表現する人も多くいるにも関わらず値段は当時の10倍以上で取り引きされています。
この場合は単純に美味しかったマッカランとは異なり、マニアのコレクションとして高い値段が付いたり、「当時のボウモアってどんな味だろう」という好奇心によって値段が上がっていると言えます。
2000年以前のグレンリベットも同じです。アザミと呼ばれている、ボトルのラベルにアザミの花が印刷されている時代のものは、今の所はそこまで高騰していませんが、それでも当時の3~5倍の価格が付いています。
今、紹介した3種類はいずれも田舎の酒屋でも売っていた定番のウイスキーです。
図を見て分かる通り、マッカランや山崎12年は明らかに流通量が多いのですが人気があって値段が上がります。限定数量生産のウイスキーでも、人気が上がるものと全く上がらないものがあります。
では何故ブレンデッドウイスキーのバランタインやシーバスリーガルのオールドボトルが値段がつきにくいか、これは近年のシングルモルトブームという理由もありますが、「贈答品として」大量に流通しているからです。特に昭和から平成中期まで洋酒を贈答に使うのが盛んでした。取引先などに洋酒飲む飲まない別として、明治屋や百貨店などで購入され大量に贈られた経緯があります。そのまま消費された物も多かったのですが、家内に飲む人が居なかったり、希少な物としてキャビネットに飾られていることもあり、2020年になった今になって遺品整理や生前整理で当時のブレンデッドウイスキーが買取ショップやオークションに出品されているのです。
確証は無いのですが、この現象もあと10~20年で変化があると思います。その理由がイギリスやEU圏内のウイスキー販売サイトでは日本の取り引きよりも値段が高いからです。EU圏では贈答で飲まないウイスキーを渡したり、棚にしまい込むということが日本よりも少ないため供給過多になりにくいのです。
そして今でこそ遺品などで大量に出回っていますが、少しずつ取り引き量が減ってゆき、いずれは価格がジワジワと上がっていくと予想できます。ウイスキーは貴金属と異なり消耗されていくので、昔の物の価格が高騰しやすい傾向にあります。
現行品を大量に買ってしまうのはリスク高
なるほど、では店に買いに行こう。と思うはずですが、現行品のウイスキーを買うのは気をつけた方が良いです。大きな損はしないと思いますが、何年経っても全然上がらないという銘柄が出てくるはずなのです。
例えば先ほど話に出たマッカラン。過去の物は美味しいのですが、現行品は更に大量生産されて美味しくないので、それを買っても今後価値が上がるかは懐疑的です。
ウイスキー投資の面白さと難しさはそこにあります。「美味しい」と有名になると、設備を拡大したり製造を自動化して大量生産して味が落ちる。すると当時のボトルは高いけれど、新しい物は価値が上がりにくい。こういった現象が起きます。
まさに巻頭の山崎蒸留所に起きていることと同じです。年数表記のウイスキーを生産終了、もしくは販売量を絞る、そしてノンビンテージの味が劣化したものを沢山売る。こんな流れになっています。
つまり現行品を買い漁るには、今はそこまで有名ではないけど数年後に価値の出る、飲みたい人が増える、であろう銘柄を選ぶことです。
豊富な知識が無いのであれば、ある程度有名な銘柄を選ぶのがお勧めです。ローズバンクやポートエレンのような閉鎖蒸留所は減る一方で価格が上がることも期待できますが、今から高値で掴むのは損をする可能性もあります。またG&Mやシグナトリーなどボトラーズブランドの生産数量限定品も、価格が大幅に上がる物もありますが、生産数も飲み手も少ないので、相場を読むのが難しいです。
日本のウイスキーはギャンブル
サントリーやニッカ、イチローズモルトなどの大手の在庫が減ってから、地方ウイスキーがスーパーに並ぶようになってきました。具体的に銘柄は上げませんが、地域名+ウイスキーとして百貨店にさえ進出しています。
これらが人気が出る前に青田買いしたい、という気持ちも分かりますが、ギャンブルです。価格が品質に伴っていないのにも関わらずジャパニーズウイスキーブームに便乗して売れているだけの商品も混ざっているからです。
ニッカやサントリーがここまで世界的に人気を得たのは長いこと品質の改良や研究を続けてきた成果です。地域名+ウイスキーの中にはビンテージや大麦の産地さえ書いていない酷いまがい物もあるのです。中には海外からウイスキーを輸入してきて、それを自社の物とブレンドしてかさ増ししているものもあります。そういったウイスキーを焦って買うのは避けるべきです。
そして筆頭のサントリーでさえ近年は海外からバルクウイスキーを大量に輸入してきて、安い価格帯のウイスキーに混ぜていると言います。山崎や白州に至ってはNAS(Non age atatement、ノンエイジ・ステートメント)という年数表記をしないラインナップに移行しています。
ほんの10年前までコンビニで山崎10年、12年が並んでいたのに今では貯蔵年数が不明の山崎を3倍以上の価格で販売しているのです。公開はされていませんが、樽貯蔵が1~3年という短期間の可能性も十分にあるのです。
これで酒質が落ちていても全くおかしくありません。今の現行マッカランを買うのと同じ運命をたどります。
一時期、ウイスキーの知識が無い人や初心者が、「SUNTORY WORLD WHISKY 碧Ao」など世界中のウイスキーをブレンドした商品をこぞって買い求めましたが、これは踊らされているとしかいいようがありません。
ラベルに漢字が書いてあれば買ってしまう層が一定数居ますが、このワールドウイスキーは日本国内の原酒枯渇によって、バーボンやカナディアンウイスキーを混ぜて作ってしまおう!という、サントリー傘下の蒸留所の原酒をかけ合わせたものです。このようなブレンデッドウイスキーは10~20年経っても価値は上がりません。
本当の飲み手に人気のある銘柄を買う
今後大切なのは、少しニッチでも今後大きくなる可能性を秘めたウイスキー。もしくは、今流通していても消えてゆくであろう銘柄を買っておくことがウイスキー投資と言えます。