漫画、神の雫を読んだことはありますでしょうか?
天才的なテイスティング能力を持つ主人公が、世の中にある数万種類のワインの中から1本の神の雫を見つけ出すと言う話です。 私がこれを初めて見たときは、ばかばかしくさすがに存在しないだろうと、漫画にありがちなスーパーマン表現だと思っていました。
ところがある日、本当にそのような奇跡的な鑑定能力を持っている人物に出会いました。 その人物はXとしますが、彼はワインの場合は生産国、地域、年数などを推測できます。中でもボルドーとブルゴーニュに関しては極めて高い能力があり、ブラインドで出されたワインをものの数秒で「ヴォーヌ・ロマネ」、そこから数秒で「これは、とても偉大な畑で作られたものだ」と表現し、1級畑だと示唆します。
そこからは多少時間がかかりますが、20秒から30秒程度で、候補となる畑をいくつか挙げます。 そして同時にワインの作り方から生産者を特定します。 最後にヴィンテージも推測しますが大抵の場合はいっぱつで年数を当てることになります。
「モンジャール・ミュニュレ、レ・スショ、2000年」ボトルは別の部屋に隠されていて、絶対に見えない状況です。目で見ても「赤いワイン」ということしか分からない状態で、この回答をほんの2~3分で導き出します。
そこに立ち会った人物全員の鳥肌が立ったのは言うまでもありません。
100%のブラインドテストでさえ、その生産地や銘柄、年数まで当てることができます。 またX氏の得意技は、ブルゴーニュの樹齢を的確に当てるというものです。 5万円のブルゴーニュだろうと、5千円の怪しいブルゴーニュだろうと、単一畑であれば平均樹齢を的確に当てる事ができます。
頭の中にガスクロマトグラフィーとインターネットが接続されているのではないかと思うほどに、気持ち悪いほどに当たります。液体の中のミネラルや何かの少量の分子を舌の上で判断しているようで、それによってワインの樹齢が分かるようです。 ただ、この言ってることが100%わからないわけではなく、私自身もヴィエニューヴィーニュかどうか程度は鑑定できます。 樹齢が10年未満のワインと、50年以上のワインでは天と地の差があります。古樹のワインは奥行きが深く、染み入るようなミネラル感があるというのも理解できます。
ワインもウイスキーも飲めば分かる
この人物の凄いところは、過去に飲んだことがないワインだとしても類似したワインから推測して極めて高い精度でボトルを当てると言うことです。 ソムリエの中にはワインの比率つまりセパージュなどを当てたり、おおまかな村名を当てたりする人はいますが、畑名・生産者・年数の全てを当てる人物は、国内でもごくごく一握りのソムリエだけができる行為です。このX氏の凄いところはそれだけでありません。
ウイスキーに関しても高いテイスティング能力があり、こちらはワインと比べるとヴィンテージに関してはやや劣るものの、前後3年程度であれば高い確率で当てることができます。 ウイスキーと言うのはワインと比べると、その年の作柄というのができにくいので、樽からの熟成状態で年数を判断しているようです。 そのため多少誤差が生まれます。
逆アセンブルに近い作業で、30年以上前にブレンドされたウイスキーでさえ、元の構成原酒を複数、言い当てることができます。X氏は「今後どのお酒が値上がりするかはとても簡単にわかる。飲んでうまいものが上がる、ただそれだけ。」と語っていました。
確かにお酒の値段が上がるメカニズムと言うのは、本当に味覚と嗅覚に優れた人物たちが、このお酒はおいしいと人々に教えて、次にやや味覚と究極に優れた人たちが買い集めるの連続です。 またもう一つのパターンは、ロバートパーカーのような著名人が有名な雑誌やウェブサイトで太鼓判を押すと言うものです。後者の場合は、コマーシャリズムの被害を受けますが、前者の場合はX氏のような味覚と嗅覚に優れた人であればすぐに素性を判別できます。
そのような理由から、もしウイスキー投資やワイン投資を本格的に行うのであれば、自分自身の味覚を研ぎすますと言うのは非常に重要なことです。 現在はSNS上で、一部の有名人が「これはウマい!買い占めた方がいい!」と宣伝に踊らされて、自分自身の味覚ではなく他人の宣伝を真に受けて購入している傾向にあります。
バーでいっぱい飲む程度であればそれでも良いのですが、ひどい場合ではその宣伝を見て飲んでいないボトルに対して何万円も支払ったり、何本も購入して棚にしまいこんでしまったりするのでタチが悪いです。
他人のコマーシャルに影響されずに、自分自身の下で実際に飲んでみておいしいと判断する能力は、最低必須条件といえます。
ステンレスのメジャーカップを使うのは味盲?
これをSNSで語ると100%炎上してひどい目にあってしまうのですが、X氏はステンレスのメジャーカップを使ってウイスキーを計量する人は味盲だと語っていました。
理由はとても簡単です。 多くの人はステンレスには匂いや味が存在しないと思っていますが、実際にステンレスの器に24時間水を入れて放置してみてください。 確実に水はガラスに入れた時と違い、ステンレスに入れたときの方が金属の匂いが水に写っています。
嗅覚や味覚に敏感な人は、同じ建物や横並びのキッチンでも、蛇口の違いによって水の味が違うと言うのは常識になっています。 ではステンレスのメジャーカップでウイスキーを計量すると臭いが移るのか?これはイエスです。 ただ一般的な人には感知できないほど微量なので問題がないとされているだけです。
怒り狂う人物に対してはこのように問いただします。 ガラスの瓶の中に1日入れたウイスキーと、ステンレスの容器の中に1日入れたウイスキー、同じものであればあなたはどちらを飲みますか?
ステンレスの水筒やスキットルなどを飲んだことがある人であれば分かると思いますが、半日も入れておけばニオイが移ります。たった5秒〜10秒しか入れていなくても、閾値が低い人であれば即判断できます。
1リットルの水に1滴の牛乳を入れても、その味やニオイを判断できる人は数多くいるはずです。同じことが、メジャーカップで起こっているだけです。 つまり慌ただしい業務で正確に測るために使っているバーテンダーはまだしも、1ショット何万円もするような高級ウイスキーをステンレスで計測しているような人は味盲というわけです。
※飲食店で働く方の名誉のために言っておくと、X氏は100万人に1人以下の能力を持っているだけで、ステンレス製のメジャーカップを使っていても普通です。氏はワインのキャップシールを剥がす前に、ブショネを判断することが何度もあります。「空けてごらん、ブショネだから」と言われて、「そんな馬鹿な!」とキャップシールを外して、コルクを抜くと、たしかにブショネなのです!人間よりも犬に近いのかもしれません。