昔は国産ウイスキーがとても好きで頻繁に購入して、毎晩のように飲んでいました。 だんだん入手が難しくなり、値段もどんどん上がり当時飲んでいた蒸留所のウィスキーは10倍近い値段で売買されてしまっています。
それからは国産ウイスキーに興味を失い、すっかりスコッチやラムなどに避難してしまいました。 この問題の1つは、日本のウイスキーが人気になるのは良いのですが、値段が上がることにより儲かることがわかってしまい、ボトルを入手した個人や、蒸留所も大量生産するようになり結局自分たちの首を絞めることになりました。
わずか3年しか経っていない国産ウイスキー
これは直接名前を出すと怒られてしまうので伏せますが、ある新興蒸留所はプライベートカスクで一樽33万円で内容量 50リッターを受け付けています。 これを購入すると、樽を丸ごと所有する権利を得ますが、3年すると必ずボトルで詰めなければなりません。750mlで約66本、エンジェルスシェアで実際には60~62本程度でしょうか。
こうなると、1本あたり5500円以上にもなってしまいます。 たった3年しか熟成していないウイスキーを樽ごと購入したとしてもこの金額になってしまうのです。 これは信じられないほど高く、英国国内でのプライベートカスクであれば10年以上保管してもらえる金額になります。
正直言って、たった3年しか経過していないウイスキーが美味しくなるとは思いませんし、その土地の風土が反映されるとは思いません。 最低でも8年、できれば10年から12年程度は保管しないとウイスキーの風味にはならないはずです。 これは原価で5500円なので、ボトリングして送料や諸経費を負担して、売却するとなると1万円近くなるはずです。たった3年のウイスキーが5500円〜1万円というのは高すぎると思います。
スコットランドのアイラ島にあるブルイックラディは、現地の島で少量生産を丁寧に行っていますが、アイラ島で収穫された提携農家の大麦を使った、アイラバーレイを7年間熟成させてボトリング。日本では6,000円程度で販売しています。 様々な税金や輸送コストなどを入れても、この金額で作れてしまうのです。もちろん味わいも素晴らしく何本か所有していますが、国産ウィスキーがどれだけ丁寧に作っていても高すぎると思うのは自然なことではないでしょうか。
良質なカスクを得ることができない
ワインマニアは、二言目には「バリック」と樽がどこの会社で製造されたものか、その樽材の木がどこの村で収穫されたものかを気にします。生産者によっては毎年新樽比率を変更して、その年の葡萄の味にあった樽を使い分けてブレンドしてボトリングします。
ウイスキーに使われる樽は北米のオーク材の新樽に一度バーボンを入れた空樽や、シェリーの輸送保管用に使った樽を使います。 シェリー酒と言うのは最近消費量が低下していて、ソレラシステムという仕組みにより空き樽が出ないようになっています。アメリカンオーク、ヨーロピアンオーク以前に長期保管に使われるシェリー樽はそもそもほとんど出回りません。
マッカランは早くからこのシェリー樽に目をつけ、提携しているシェリー生産者に、自社が用意した新しい樽を預けてシーズニングしてもらっています。 このように昔から付き合いがある場合は良いのですが、最近日本でできたばかりの蒸留所は、良質なシェリーの空樽を割り当ててもらえることは不可能です。そもそも、スコットランドの歴史あるブランドでさえ入手が苦労しているのです。
そして輸送にもコストがかかるので、日本の新興蒸留所は良質なカスクを買い付けるのは難しいのではないでしょうか。 サントリーでは早くからミズナラと言う日本独自の木材を使い熟成をしていますが、それにバーボンを入れるわけにもいきませんし、日本ではシェリーが作られていないのでシェリーフィニッシュも難しいです。
これを言ってしまうと元も子もないのですが、大麦も輸入、樽も輸入では本場のスコッチに勝つことは難しいと思います。 確かに本場のスコッチに負けないような素晴らしい長期熟成のジャパニーズウイスキーも存在します。 実際に私が飲んでいた頃は、18年なんていうのはどこの店にもあり、25年もワンショット3000円で飲むことができました。
国産ウイスキーを応援したいのは山々ですが、上記のことから日本人は情報ばかり飲んで、実際の味わいをないがしろにしているように思えてなりません。