オールドビンテージのウイスキーを置くバーに行くと、必ずといって良いほどお目にかかるのが「イタリア廻り」です。なぜイギリスで作られたウイスキーが、わざわざイタリアに行き日本にやってきたのか知らない方もいるのではないでしょうか。
ここでウイスキー投資で絶対に外さないイタリアの独立系ボトラーについて話をしてみます。
私はオールドボトルに詳しくないので、知る範囲で簡単にまとめてみますので少々間違いがあるかもしれません。ジオベネッティを初めとして、1960年~1980年代はウイスキーがまだ世界的に需要が高くなく、ブレンデッドウイスキーこそが至高のものとして扱われていました。
シングルモルトウイスキーとして瓶詰めしている蒸留所は限られていて、丁寧に原酒を作ってもブレンド用として樽のまま買い取りされてしまうようなところも多かったようです。
天才的なイタリアの独立系ボトラーが買い付ける
今の世界的なシングルモルトウイスキーのブームをルネサンスに例えるならば、チマブーエの弟子であるジョットが、聖フランチェスコ聖堂のフレスコ画を制作したように、ブルネレスキが大聖堂を作り遠近法を確立するよりも前に、新しい様式に着目して伝播していたのです。
今まではブレンド用として消費されていた蒸留所から優れた樽を買い付けて、自社のラベルを貼りイタリアで流通されたり、当時は標準だった冷蔵によるチルフィルターをしない無濾過でボトリングしたりと新しい風をもたらしました。ジオベネッティやサマローリをはじめとする、独立系ボトラーはさながらノミを使って大理石に生命を吹き込むミケランジェロのようなものです。
サマローリ Samaroli
惜しまれつつ2017年に亡くなった故シルヴァーノ・サマローリは1968年にSamaroli SRL Wine & Spirits Merchant社を設立し、スコッチ・ウィスキーのボトラーとして初めて非スコットランド、非英語圏の企業となりました。現在は奥さんが氏の遺産であるカスクを「マサム」名義でボトリングして販売しています。当初10年ほどは輸入代理店のような形で独自のボトルはリリースしていませんでしたが、1980年代には本格的に自身の舌と鼻で選んだカスクを詰めるようになり、今では故アンリ・ジャイエのように神格化されて取引されています。とくに氏が詰めた1960年代のボウモアは素晴らしいものであったそうです。
インタートレード INTERTRADE
インタートレードは1980年代に設立された会社で、サマローリと同じようにイタリアの独立系ボトラーを語る上で重要なブランドです。
代表者のナディ・フィオリ氏はカスクストレングスでノンチルフィルタードのウイスキーの選定を得意としていて、イタリアに輸入していたゴードン&マクファイル社とは非常に親密な関係にあったそうです。
そのときにプライベートボトリングを初めたそうですが、どれも並外れた品質だったそうです。中でも1960年代に蒸留所で生産された希少なウイスキーは現在でも高価な金額で取引されています。
インタートレードの解散に伴い、ハイ・スピリッツという会社が1999年に設立され、現在でも少量ですが日本国内でも流通しています。
同社は、ラベルやパッケージの芸術的なスタイルで知られていますが、これはイタリアのボトラーに見られる典型的な特徴で、特にスコットランドのカラーリスト、Sails In The Wind、Lochs And Castles Of Scotlandシリーズや、Life Is A Circusシリーズが有名です。最近ではボトリング量も減っていて、ブルックラディ蒸留所が増えてきているようです。
セスタンテ SESTANTE
1985年に設立したセスタンテ社では、ゴードン&マクファイルやケイデンヘッドのボトルを中心にボトリングを行い、独自のデザインでリラベルを施したウイスキーは、伝説的なウイスキーとして語り継がれています。
上質なウイスキーのラベルを自社に張り替えるだけでなく、輸入したウイスキーの一部を美しいエディンバラ製クリスタル・デキャンタに詰め替えています。マッカランなども存在していますが、クリスタルデキャンタのセスタンテを、もしも奇跡的にバーで見つけた際は絶対に飲んではいけません。99%が偽物で、例え残りの1%だったとしても1ショットで軽自動車が買える金額になっているかもしれません。
2000年までセスタンテという名義で販売されていましたが、現在はモデナのシルバーシールがセスタンテ買収しました。シルバーシールは当時のセスタンテの原酒を保有しているともいわれ、今後ボトリングされたら確実に奇跡の1本が誕生します。
ムーン・インポート MOON IMPORT
1980年に設立して今年で42年を迎えるムーンインポートは、英国バランタインで務めていたジュゼッペ・ペピ・モンジャルディーノが設立した会社です。「ハーフムーン」や「ムーンインポート・セカンドコレクション」として知られる最初のシリーズで、いくつかの優れたウイスキーをボトリングしました。サマローリの奥さんが所有している原酒を詰めた「マサム」の販売もしているので、詳細は分かりませんが、現在のサマローリはダグラスレインとハンターレインのように分離した存在なのかもしれません。
イタリアの独立系ボトラーは高いだけ?
今まで数多くのウイスキーを飲んできましたが、イギリスのボトラーズブランドと、イタリアのボトラーズブランドでは味わいの傾向が異なります。 イギリスで古典的で控えめな味わいが好まれているのと対称にイタリアはグラスに注いだときに、ロマーノ・レヴィのグラッパのように華やかな香りが広がるものが好まれます。
これは国民性や、ウィスキーに対する考え方の違いが反映していますが、世界的にもオールドヴィンテージのイタリア物は高い評価を得ているので、このオールドヴィンテージを入手しておけば今後価値が見込まれます。
モデナのOLD WHISKYでは、当時のセスタンテが少数ですが販売されています。こういった海外サイトで仕入れるのも良さそうですね。