SNSを見ていると「田舎の古い酒屋で、昔のリザーブを入手しました!」写真とともに希少なウイスキーを手に入れたと、喜んで自慢しているウイスキー愛好家を見るようになりました。
きっと彼はこのように思うに違いありません、「1980年代の山崎と古い時代の、珍しい国内ウイスキーを手に入れた」と。 確かに昔の酒を手に入れたことに間違いがないのですが、長くウイスキーマニアをしている人たちからは隠れて失笑されています。
ほんものの酒を! (三一新書 921) (1982/02/01) 日本消費者連盟という、非常に面白い絶版本があるのですが、実名を出してサントリーのインチキウイスキーを批評しています。 今でこそ比較的まともなウイスキーを作っている同社ですが、この時代はスコットランドのウイスキーと似ても似つかないエセウイスキーを作っていたと同書では書かれています。
「空と虹と恋と」というブログで色々話題に出ていますが、英国ではウイスキーの原材料と作り方を法律で厳しく定義しています。Wikipediaより一部引用してみます。
イギリスにおける法律上の定義
2009年スコッチ・ウイスキー規則(The Scotch Whisky Regulations 2009)により次のように定義されている[6]。スコットランドにおいて製造されたウイスキー[7]であって、
(a)スコットランドの蒸留所にて、水および発芽させた大麦(これに他の穀物の全粒のみ加えることができる。)から蒸留されたものであって、
(i)当該蒸留所にて処理されマッシュとされ、
(ii)当該蒸留所にて内生酵素のみによって発酵可能な基質に転換され、かつ、
(iii)当該蒸留所にて酵母の添加のみにより発酵されたものであり、
(b)蒸留液がその製造において用いられた原料およびその製造の方法に由来する香りおよび味を有するよう、94.8パーセント未満の分量のアルコール強度に蒸留されており、
(c)700リットル以下の容量のオーク樽においてのみ熟成されており、
(d)スコットランドにおいてのみ熟成されており、
(e)3年以上の期間において熟成されており、
(f)物品税倉庫または許可された場所においてのみ熟成されており、
(g)その製造および熟成において用いられた原料ならびにその製造および熟成の方法に由来する色、香りおよび味を保持しており、
(h)一切の物質が添加されておらず、または
(i)水
(ii)無味カラメル着色料、もしくは
(iii)水および無味カラメル着色料
を除く一切の物質が添加されておらず、かつ、
(i)最低でも40%の分量のアルコール強度を有するもの
ここで重要なのは、必ず「700リットル以下の容量のオーク樽においてのみ熟成されており」「一切の物質が添加されておらず」「水、無味カラメル着色料、もしくは)水および無味カラメル着色料
を除く一切の物質が添加されておらず」という条件です。 無味カラメル着色料というのは、砂糖を原料とした甘みの無い天然の着色料ということです。
山崎、白州、響ではない安いウイスキーは怪しい
昔からこのように英国では厳しくウイスキーに対する法律が制定されていました。 日本ではこのような厳しい法律がないので、どのような作り方をしてもウイスキーと名乗ることができました。 山崎や白州の蒸留所名を語っている商品は、私の知る限りでは当時より本当に本格的なウイスキーを作っていました。また、サントリーのブレンダーの本を見ていても、 英国で通用するような本格的なウィスキーを作りたいので、研究を重ねてコンクール用の「響」を出品期日直前まで、深夜に渡って泊まり込みで作り上げたという文章を読んだことがあります。
つまり山崎や白州、グレーンウイスキーとブレンドされた響は、 英国の基準に基づいた本格的なウイスキーですが、それ以下の大衆向けのブレンデッドウイスキーとなると、かなり基準が甘いと言うことです。3年以上の期間、樽で熟成されているかどうかも怪しいです。 実際にサントリーに問い合わせたことがあるのですが、企業秘密と言うことで公開してもらえませんでした。
後ろめたいことがなければ、「英国の法律と同等の基準で作っている」と公表すれば良いものを、企業秘密にするので、「基準を満たしていないのでは?」と疑ってしまうのは仕方ないことです。
ちなみにサントリーの“オールド”も、少なくとも昭和四十年代の商品のラベルには、上の方に小さくだが“FINEST OLD LIQUEUR”との文字が印刷されていた。
そして例の『ほんものの酒を!』によれば、オールドにはリキュールの他に甘味果実酒も混ぜ込まれていて、我々の祖父や父親世代の日本人達は、そのまがい物の模造ウイスキーを「美味しい、美味しい」と有り難がって飲んでいたのである。
角瓶やオールドだけではない。ホワイトにもそしてリザーブにも、サントリーのウイスキーにはリキュールや甘味果実酒がバンバン使われていたのだ。
このイミテーションばかりの洋酒メーカーの広告に乗せられ、サントリーを世界的な大企業にまで育てたのだから、日本の消費者というのは呆れるほど寛大と言うより、まさに愚かそのものであろう。
この際だから付け加えておくが、「ラベルに騙されず本物を見抜く目を持て」と教え、広告よりとことん品質にこだわり香味料などは一切使わせなかった竹鶴政孝氏のニッカは常に経営難に悩み、そして今ではアサヒビールの完全子会社になっている。
これもまた、日本の消費者が選んだ結果なのだ。
出典元:http://kurosawaitsuki.blog.fc2.com/blog-entry-357.html
今のサントリーのリザーブは、さすがにリキュール添加されていないと願いますが、 昭和末期のものに関しては上記の記事のように、リキュールや甘味果実酒が添加されていました。 この本となる本を読んだことがあるのですが、内部告発によるブレンド比率の書類が添付されていました。
日本消費者連盟の所有していた内部告発書が本物かどうかは今となっては不明ですが、実際に昔のサントリーの80年代ブレンデッドを飲むと、英国のオールドパー、ホワイトホース、ジョニーウォーカー、バランタインなどとは全く異なった味わいだということが分かります。 成分分析をしたわけではないので明言することは避けますが、その怪しい時代のウイスキーを喜んで購入しているという、若手のウイスキー愛好家は可愛そうに思えます。
逆説的な当時のウイスキー
エビデンスとなる資料が存在しないので、完全に偽ウイスキーと言い切ることはできませんが、このような逆説はどうでしょうか。 1980年代の山崎蒸留所のウィスキーは、非常に価格が高騰してしまい当時、公式サイトで5,250円で販売されていたものが、50万円以上と100倍以上の値上がりになっています。
ところが、1980年代の特級表示ラベルがついた旧酒税法のサントリーのブレンデッドウイスキーは、2022年の今でも当時の販売価格と似たような値段で流通しています。ブレンドされた響も、20~30倍以上で取引されているのに、何故か角瓶やリザーブは値段が全く上がっていません。
これは昔のサントリーのブレンデッドウイスキーに、「上がらない理由」があるからなのではないでしょうか。