「なぜ昔の竹鶴や余市・宮城峡、白州や山崎の値段が上がるのに、サントリーリザーブのような国産ウイスキーは値段が上がらないのか?」そう思う人もいるのではないでしょうか。
このウェブサイトで何度か書いているのですが、噛み砕いて簡単に解説します。
国産ウイスキー100%の銘柄は上がる
例外なくいえるのが国産ウイスキー100%使っている銘柄は値段が5~10倍以上にまで上がっています。中でも上記で挙げた銘柄は、その土地の蒸留所で製造した原酒を100%使用しています。
竹鶴はグレーンウイスキーがブレンドされていますし、サントリー響も同じ用に国産のグレーンをブレンドしています。
特にモルトウイスキー100%が人気ですが、国内で作ったグレーンウイスキーであればブレンドされていても値段が上がっているようです。グレーンウイスキーというのは大麦ではなく、穀物で作られて単体ではあまり飲まれることのないウイスキーです。
ただし、竹鶴や響のようにブレンドすることによって豊かなウイスキーに変わるので、混ざっているウイスキーでも価値が上がります。
なぜ安いブレンドウイスキーは値段が上がらないのか?
すごく面白いことに、市場の価格はそのウイスキーの特徴を明確に反映しています。例えば昭和60年代のサントリーリザーブ、なんと2022年現在では値段が当時の価格よりも安く流通しています。
1980年代の山崎は100万円以上になるのに、なぜ同じ会社サントリーのリザーブウイスキーが2,000円以下で売買されているのか、それには中身が関係しています。
昭和から令和の現在まで、安いブレンデッドウイスキーは海外の原酒が混ぜられています。イギリスのスコットランドなどで製造された、蒸留所の名前で売ることのできないようなバルクウイスキーを安価で輸入してきて、自社のウイスキーを少量混ぜて自社ブランドとして販売してきました。いわば海外から格安で服を輸入してタグを付け替えて売っているようなものです。
今はさすがに無いと思いますが、ひどいと砂糖を添加したり、酒精強化ワインやリキュールを添加し、混ぜもので落ちたアルコール度数を上げるために、自社のグレーンウイスキー(連続式蒸留機なのでアルコール精製度を高められる)をブレンドしてウイスキー風味カクテルを作ってボトリングしてきました。
本場の英国では水と、カラメル色素以外は添加を認めておらず、ウイスキーではなくスピリッツとしてしか販売できません。ところが日本では、海外のバルクウイスキーの原酒を輸入して、水で薄めて酒精強化ワインで香りや甘さを足して、工業アルコールのような風味もないできたてのアルコールを添加してボトリングしてきました。
そのため、丁寧に作ってきた1980年代の国産ウイスキーと1000倍以上もの価格の違いがあるのです。
国産ウイスキー投資で騙されないためには
今でも海外から輸入してきたバルクウイスキーを自社で詰めて、さも日本で20年以上も熟成させたような雰囲気で漢字のラベルを貼って販売する悪質な業者が存在します。どことは言いませんが、30年以上も苦労して国産ウイスキーを蒸留しつづけてきた、ニッカとサントリーのおこぼれに与ろうと便乗しています。
これらのウイスキーは、断言できますが値段は上がりません。ウイスキーの相場を形成している人たちというのは味覚が敏感で、本質的に価値がないとわかれば高いお金を払いません。なぜなら、山崎蒸溜所と白州蒸溜所を所有しているサントリーの製品でさえ、「これはねぇ…(苦笑)」とコレクションしないのです。
ただし、ここ最近のウイスキーブームで流行りに乗った若者の中には「希少な1980年代のサントリー手に入れました!」と大喜びでSNSに写真をアップしている人がいます。もちろん、だれがどんなウイスキーを買って飲んだり、保管するのは自由ですが、上記の事情を知らないと長期的にみて余計な出費となってしまうこともあります。
悪くない酒造メーカーもある
100%その酒造メーカーが悪いかというと、それもまた異なります。日本ワインでも安い価格帯は輸入バルクワインで、高級な価格帯は自社畑のぶどうを使ったワインというメーカーも多いです。
国産ウイスキーの蒸留所も同じで、安い価格体は誰でも手軽に楽しめるもので、高級な価格帯は自社で作った本格的なものを提供しています。
はじめてチャレンジする人や、旅行のお土産屋でいきなり「1本1万円ですよ」では不親切です。ワインの場合は1,000円代、ウイスキーの場合は2,000~3,000円で手頃なものが飲めるのは、輸入原酒を活用したからです。
また、スタートアップ企業の場合は資金繰りのために輸入ウイスキーに頼る傾向があります。高級なウイスキーは自社の原酒、安いものは輸入ウイスキーを混ぜたものに自社の原酒を少し足す。こんな風にして資金繰りしているところもあります。
しかし、最近では目に余るものもあり、たった3年しか樽熟成していないウイスキーを平然と1万円以上で販売して、ひどいと2万円近い金額を取る蒸留所もあります。
スコットランドの本格的なウイスキーが12年以上の熟成で4,000円、18年以上の熟成で1万円弱ということを考えると、輸入や代理店などのコストが掛かってないのに割高すぎるように思います。
これらのウイスキーが、美味しく熟成しているかどうかは分かりませんが、「人気だから」の一言で大枚はたいて長期保管しても価値が上がるかは分かりません。慎重に見極める必要がありそうです。