
あまり良いニュースではないのですが、アラブ首長国連邦(UAE)のビジネス情報サイトZawya.comでは、ウイスキー投資の人気と利益率が高いことを紹介しつつ、今年になってからの伸び悩みについても触れています。

Whisky investments are growing in popularity as inflation stays stubbornly high, with the distillery’s products selling worldwide. Some do not hesitate to speak of liquid gold, while others call for caution owing to scams. (Photo by Andy Buchanan / AFP)Agence France-Presse (AFP)
The global whisky market hit $87 billion (81 billion euros) last year
インフレが高止まりする中、ウイスキー投資の人気は高まっており、蒸留所のウイスキーは世界中で売れています。 詐欺があるため注意を呼び掛ける人もいます。 (写真提供:アンディ・ブキャナン/AFP)フランス通信社 (AFP)
昨年の世界のウイスキー市場は870億ドル(810億ユーロ)に達した
2012〜2022年のウイスキー価格上昇率は驚異的で、人気のない蒸留所でさえも価格が跳ね上がっています。原酒の枯渇により、カスク投資サイトでは今まで見向きもされなかった弱小の蒸留所の樽さえも売るようになりました。
According to Ashton-Hyde, the price of most of its casks doubles in value within five years, while trebling over a decade.
But their progress is seen slowing, with such bottles rising only three percent in value last year, far below inflation levels around the world.
アシュトン・ハイドによれば、ほとんどの樽の価格は5年以内に2倍になり、10年間で3倍になるという。
しかし、その進歩は鈍化していると見られており、昨年そのようなボトルの価値はわずか3%しか上昇せず、世界中のインフレ水準をはるかに下回っています。
このニュースを見て感じたことは、たしかに樽の売買価格が上がっているものの、一部の人気銘柄以外では上昇率が鈍化しているということです。
ボウモア、カリラ、ラフロイグといったアイラや、マッカラン、グレンドロナックなどのシェリーカスクは依然として価格の上昇が強いですが、比較的手頃な価格のベンリアック、トマーティン、アードモアなどは過去1年での上昇率が低くなっています。

例えば上記のウイスキーカスク投資サイトでは、「BEN RIACH 2008 Cask Size – Hogshead 311 Bottles 」が£17,900.00で販売されています。仲介手数料や諸税、外国送金の手数料を無視すると、17,900ポンド=320万円で1樽購入できます。カスクストレングスでボトリングするとなると、1本1万円弱となります。ボトリング時に諸経費がかかりますが、樽の譲渡価格はまだ現実的な値段です。
ではウイスキー投資は失敗なのか?
私自身、ウイスキー投資は難しい局面を迎えていると思います。
どのような状況なのかを箇条書きでまとめてみます。
・需要は増加している(新興国などの消費も増加)
・供給も増加している(世界的に蒸留所の増産や、新設蒸留所が乱立)
・世界的なインフレ、中でもイギリスのインフレ率は高止まり
・日本の円安進行(円ポンド為替は、2020年比で40%近い上昇)
・日本国内のインフレ、経済の低迷と購買力の低下
他にも様々な要因がありますが、主に上記の需給バランスと為替、インフレが影響しています。中でも「購買力の低下」は、国内相場に大きく影響を与えています。

山崎12年の例では、2010年までは5,000円以下でしたが、2022年の24,000円台を抜け出せていません。昨今の物価上昇を考慮すれば、チャート上は25,000円以上でもおかしくないのですが、供給量が増えたこともありますが、購買力が価格に追いついていません。
例えば1日働いて得ることのできる賃金が1万円だとします。2010年は1日働けば2本買えましたが、今では4日間以上の労働に相当します。実質賃金が上昇しない限り、輸出やインバウンドによる相場形成になるので上抜けは厳しいのが現状です。
もう少し分かりやすく例えるとコンビニの売上高推移です。

店舗数が増加して、インフレによる商品単価も上昇したセブンイレブンですが、全店の売上高は減少か横ばいを維持しています。2020年はコロナの影響などありましたが、それ以降の年も苦戦しています。
勤務方針やライフスタイルの変化、嗜好の変化などもあると思いますが、商品単価が上がったことによる購買力の低下がしているのではないでしょうか。
一般的にコンビニの売上構成比は、日配食品と加工食品で60%近く占めますが、単価が上がっているにも関わらず売上高は横ばいになっています。
ウイスキーも同じように、原材料費、人件費、光熱費などの製造経費が上昇しているにも関わらず、商品単価が上がりすぎると購買力が低下してしまいます。米国のように経済成長を続けていれば、インフレでも購買力が維持できるのですが現在の日本では輸入品の「買い負け」が起こっています。

価格が高騰しているブルゴーニュワインの極端な例を出すと、昨年2022年9月に税込14,500円だった「グロフィエ ジュブレ・シャンベルタン」が新ビンテージでは税込30,800円と2倍以上に値上がりしています。

現在のユーロ高が続けば、来年には更に値上がりして35,000〜40,000円になる可能性はありますが、日本人が買い負けして輸入量が一気に減るのではないでしょうか。
1〜2年前まで1万円弱で買えたワインに3〜4万円出せる人は少なくなってきます。これがウイスキーにも起こっているのだと思います。
出口戦略は海外輸出に?
「ウイスキー投資情報」と銘打っているように、私自身も樽投資・ボトル投資を積極的に行っています。
1本30万円以上のXOP Blackなどの高額ボトルを複数所有しています。国内の価格が諸外国に追いついていないのを感じます。

ヤフーオークションで1円スタートされると、WhiskyBaseやWhiskyAuctioneerの50~70%で終了することが多く、ときに定価を割った金額で終了しています。
かといって新品価格が安いかといえばそうでもなく、入荷はドル建てもしくはポンド、ユーロ建てですので代理店が良心的でも店頭価格は海外と同等です。つまり高額ボトルに関しては、購買層が限られていることになります。
有名蒸留所のカスクストレングスを、良いコンディションで5〜10年以上ホールドしておけば高い確率で上昇しますが、日本の購買力が追いつかなかった場合は最終的に海外を対象にした売却。出口戦略を取ることも視野に入れる必要がありそうです。

外国送金で樽を買う場合は、為替がダイレクトに効いてきます。例えば、私は2020年に3,700ポンドで樽を購入しましたが、送金手数料を入れても50万円程度でした。
現在の相場は1ポンド=178.20円で、為替手数料入れると68万円ほどになると思います。そうなると購入時の金額でしか売却できないとしても為替の利益が出ます。これは米国株の下落相場のときも、円安だったために影響を受ける日本人が少なかったのにも似ています。
S&P500が30%下落しても、ドル高でドルが30%上昇していれば相殺できるのに近い考え方です。今から間に合うかは全く未知ですが、ポンドが更に上がると思うのであれば、樽の購入をしてもスプレッドを得ることができそうです。
ただし、樽購入はボトルよりも更に長いスパン、10年以上で考える必要があります。積立の保険の感覚で放置するのが好きな人には良さそうですね。
また近況をまとめてお伝えいたします。
免責事項
当サイトの内容は個人的な推測に基づくもので、内容の完全性や、その正確性を保証するものではありません。ウイスキー投資は法律上の制約や損失が発生する場合があります。必ず自己責任おいて入手・売却等をお願いします。利益が出た場合は、確定申告など税務上の申告が必要になる場合もあります、税理士や税務署職員に相談ください。大量の酒類を個人売買する際には、酒税法上の免許や認可が必要になります。