ジャパニーズウイスキーの加熱は衰え知らず。未だに多くの国産ウイスキーが非常に高額で取り引きされています。
国産ウイスキーの影に隠れて、ウイスキー投資で見落とされがちなのが「マッカラン」です。今から10年前に1本18,000円で購入できたウイスキーが、今や55万円で落札されているのです!
グラフを用いて、高騰のメカニズムについて分析してみます。
ウイスキー投資は株に似ている
落札相場をエクセルでグラフにしてみて思ったのが、「株に似ている!」ということです。出品者は売り手、落札者は買い手、売り圧が強ければ相場が下落して、板に並んでいる商品に対して買い圧が強ければ高騰していきます。
一見、バラバラな動きをしているように見えて相場感というものが存在したのです。
(これは本文最後に紹介する、とあるボトルの推移です)
1本55万円は一時的なもの?
この落札ページを見て、安直に「すごい!」と思ってしまいました。1~2年前まで20万円だったのを覚えていて「こんな高い値段、誰が出して飲むんだ?絶対これ以上あがらない!」と思い込んでいました。
結論から言うと、そのときに20万円で買っても2倍以上の価格になったのです。ビットコインを200万円で高すぎる!と言って全て売ってしまった人に似ています。まさかビットコインも700万円まで高騰するとは誰も思いもしませんでした。
このボトルは「マッカラン カスクストレングス」というシリーズですが、初期は「赤ラベル」といって高値で取り引きされています。
2011年の価格を見たら、驚くことに18,000円~20,000円で売買されていました。2000年前後は5,000円程度だったのでしょうか。この時点で既に値上がりしていたのですが、まさか10年後に20倍以上になるとは思いもしないはずです。
赤ラベルは2002年にアメリカ向けにリリースされた樽出し非加水のウイスキーです。もう一つ、その後に出たものも「カスクストレングス」と同じ名前で発売されています。
下記の写真のボトルはアメリカでは2011年頃にリリースされたもので、数年後にサントリーも正規品販売しており販売価格は1万円、並行輸入品であれば6,000~7,000円ほどで購入できました。
今回この2つのカスクストレングスを簡易的なグラフにしてみました。値段のバラツキがあったので、主要な価格を1年ごとに絞ってみました。
2020年頃に発売された「クラシックカット」はデザインは似ているのですが全くの別物なので、間違えないように注意ください。
グラフを見て分かるのが、2011年頃は赤ラベルだけ少し値段が高くなっていました。新ラベルは2014年頃に少し値段が上がり初めて、2018年頃から急激に上がり出し、なぜか2021年になって6万円から20万円まで上がりました。
赤ラベルは2016年の時点で10万円近く上がり、そこから10万円台をウロウロしていましたが、2021年には急激に上昇して30万円、冒頭の写真のように55万円で取り引きされる例もあります。
このことから、終売直後はそこまで値上がりしませんが、ある年を境にして買い圧が急激に強くなり高騰したことがわかります。さらに面白い資料を用意してみました。
少し分かりにくい図ですみません。
これは2016年のマッカラン・エディションNo.1の発売日から2021年11月現在までのヤフーオークションでの取り引き500件の分布をグラフにしたものです。
間違っている部分もあり、同一商品が2本セットになっている出品や、別のエディションとの抱き合わせ販売、空のボトルの取り引きなども含まれています。そのため、突然跳ね上がっている部分については複数本のまとめ買いだと思っていただいてかまいません。
売り圧を実感する取り引き履歴
発売当初は転売屋によって買い尽くされてしまっていて一般人が入手するのは困難でした。非常に興味深いのが、発売直後は15,000円が定価のボトルが20,000円、25,000円とプレミア価格で落札されたということです。
いわばIPO(新規上場株)が人気で公開直後に一時的に値上がりするようなものです。ウイスキーマニアが飲んでみたい!という理由で定価より高い値段をつけました。
▼商品名、容量、希望小売価格(税別)、アルコール度数
「ザ・マッカラン エディション No.1」
700ml 15,000円 48%
※価格は販売店様の自主的な価格設定を拘束するものではありません。
▼発売地域 全国(2,500本限定)
▼発売期日 2016年2月23日(火)
2016年2月20日には、27,000円で落札されています。
面白いのが、2週間も経たない3月6日には売り圧が強くて価格が急落。転売屋の数が多すぎて値崩れを起こして、たったの16,000円まで下落しました。
これでは手数料を支払うと販売価格よりも安くなってしまいます。
転売目的の人はがっかりしたのは言うまでもありません。
ですが更に面白いのが、3ヶ月後のエディションNo.1の相場です。
買い圧に対して売り圧が強すぎて、信じられないことに1万円まで下がってしまいました。8750円が最安値です。実に半額近くまで値段が落ちてしまったことがあります。
たった2500本しかリリースされていないのに、多くの転売屋に目をつけられてしまい売り圧が強かったために下落したのだと考えられます。
先程のグラフを再び貼りますが、2018年頃までは1本15,000円を超えることがほとんどありませんでした。
そこから急激に高騰して右肩上がりになっているのが分かります。転売屋などの「売り圧」がなくなり蓋が取れた状態で、買い圧が優位になったためです。株というよりは仮想通貨に似ている部分が一定数が「バーン(Burn)される」ということです。ロックされたり擬似的に燃やされることで強制的なインフレを起こすように設定されている仮想通貨が多いですが、マッカランのエディションNo.1もまた、自宅で飲食店で抜栓されてバーンしているのです。
絵画と異なり常に喪失していくボトルはインフレする要素を内包しています。
グラフが二層になっていることに気づかれると思いますが、25,000円以下に収束しているグラフはマッカランのエディションNo.2~No.5までのボトルです。なぜか現時点ではNo.1だけが高騰して、他のボトルは今の所は急激には上昇していません。今後一気に上る可能性もありますが、未知数です。
次に上がるのは「マッカラン・レアカスク」?
海外サイトの「Whiskybase」ではBatch1~3まで軒並み500ユーロ(65,969 円)を超えているレアカスクが、なぜか日本だと2万円台で購入できます。
面白いので、こちらも2015年から2021年までグラフにしてみました。
レアカスクはノーバッチというシールが無い初期ロットから、2021年までリリースされていますが日本には最新ビンテージは未入荷でバッチ3までしか流通していません。
グラフは各種バッチが混在した状態ですが、どれも今のところは値段に差がないようです。
興味深いのが、リリース直後はエディションと同じように2万円以上出して買い求められていたのが、数ヶ月すると落ち着いて1万5千円前後に収束。そこから相場のもみ合いが起こり、2018年頃には一旦1万6千円に落ち着きました。
2019~2020年頃には15,000円を割るような出品が目立ち底値をつけましたが、今年2021年に入って過去のマッカランの高騰が足を引っ張ってか緩やかに上昇。
2020年の1月1日から今年にかけての統計を再抽出してグラフにしてみます。
ついでにトレンドラインも引いてみました。
去年末から安値が上がり、18,750円以上の落札が目立ちます。心理的なものか楽天市場などの最安値だった22,500円を目安にした出品と落札が目立ちますが、何件か26,000円を超える落札もあります。こうなると上に抜けていく可能性もあります。
国内在庫が多いので飲食店による転売もあり、まだまだ売り圧が優勢ですが、年数が入った在庫は減る一方で新しく生まれる訳ではないので確実に上がっていきます。
私の個人的な推測ですが、2022~2023年に2万円台後半から3万円。
もしも来年に終売されれば、2025年頃には5~10万円まで上がってもおかしくはないと思います。