こちらの記事は『2022年、値段高騰でウイスキーが飲めなくなる日【前編】』の続きとなります。
4.蒸留所のグループ会社化による味の影響
一方で大量生産すると品質が下がるものがあります。ウイスキーやワイン、日本酒、珈琲豆、茶、味噌、醤油、野菜や肉魚など農産物は基本的に大量生産で品質が下がります。農産物の「美味しい」とされるものは、養殖や人工ではない天然モノ、もしくは、小さな区画で丁寧に少量作られたものです。
中でもウイスキーは蒸留の過程で香気成分や油分が分離します。樽の熟成によって時間をかけて複雑な化学反応が生じます。発酵のメカニズムは完全に解明されているものではありません。
そのため現在の科学では、ロマネ・コンティを再現することは不可能ですし、1960年代のマッカランを再現することもできません。香りと味わいについて興味のある方は、以下の二冊を読むだけで知見が広がるはずです。
においと味わいの不思議 知ればもっとワインがおいしくなる 単行本(ソフトカバー) – 2013/10/2
ウイスキー 起源への旅 (新潮選書) 単行本(ソフトカバー) – 2010/4/23
大手酒造は何百万本と大量生産してノウハウも蓄積し、機械の性能も日夜向上しています。それでもワインもウイスキーも、手作りの時代が美味しいのです。
ウイスキーの場合は、原材料になる二条大麦の種類や、発芽のさせかた、昔の不安定な酵母、泥炭ピートの品質、扱いの難しい熟練した職人しか操作できなかった直火式の蒸留器や石炭動力、貯蔵する樽材の品質やシェリー由来など、それら複合的な要因によるものです。
「グループ会社化」の影響が大きい
日本酒でも良いのですが、日本人なら「醤油」に例えるのがイメージしやすいのではないでしょうか。醤油の原材料は、うまみのもとになる「大豆」、香りや甘味のもとになる「小麦」、そして「食塩」で味が構成されています。
これは作り話の例ですが、近畿地方にある「いろは醤油店」は、昔ながらの手作り醤油店、代々言い伝えられた手法で、ガスではなく薪火で過熱し、手作り麹を仕込み、近所の桶屋が組んだ木樽で熟成発酵させます。生産できる量も限られていて、”職人による見極め”が肝でした。気温や湿度、木桶や原材料によっても味が左右して、毎年少しずつ違う味になります。全国にファンがいる人気の醤油ができます。
では、「いろは醤油店」が大企業に買収されたらどうなるでしょうか?
人気の知名度だけを使って、大量に安定して生産するはずです。不安定な発酵や味のブレを抑えて、毎年必ず同じ味わいになるように改善します。雑菌が入らないようにステンレスタンクとコンクリート作りの建物に改修して、薪火は廃止して機械でガス加熱、職人に頼らなくてもマニュアル1冊あれば派遣社員でも味が再現できるようにします。温度管理や湿度管理も年間通して一定にして、利益追求のために原材料も安いものにします。
同じことがスコッチウイスキーにも起こっています。今までは代々伝える小さな蒸留所だったものが、大企業の傘下に収まることで安定生産・大量生産に切り替わり、利益を上げるための道具として動かなければなりません。
グループ会社化によって経営が改善し、品質の安定や画一化がされコカコーラのように世界どこで購入しても同じ味になるというメリットはあります。
ただ、昔ながらの手作りの味わいは消えてなくなります。
ウイスキー愛好家や、高級酒を飲んでいる富裕層はこうした変化に敏感で、昔の手作り時代を懐かしみ、大枚はたいて購入するため値段が上がります。
5.インターネットの情報共有化
値上りの原因のひとつ、それは「インターネットによる情報共有化」によって、凄まじい勢いで情報が並列化がされるためです。
1980年代までは、どれだけ素晴らしいウイスキー蒸留所があったとしても、どれだけ奇跡の美味しい1本があったとしても、友人や近所のバーでしか情報共有がされませんでした。テレビで紹介されれば別ですが、雑誌の編集者や有名人でない限り、情報発信というのは困難でした。
実際に、ボウモアの黄金期や、60年代マッカランが投げ売りされていたのも、その価値が共有されていなかったためです。今では誰でもSNSで情報発信できるようになり、「このボトルが美味しい!」とフォロワー1万人の酒インフルエンサーが発信すれば、ものの10分で高額ウイスキーが完売してしまう時代です。
味が想像できないようなボトラーズの無名蒸留所でも、影響力のある人が推奨すれば、ネット通販で即時完売ということがおきます。そのため、美味しいウイスキーはどんどん売れて消えて、二次流通で値上がりを起こしています。
もう一つが世界で均衡が取られるということです。日本で、ある蒸留所がブームになったとして、海外でそのボトルが安く売られていたら海外通販で取り寄せして、国内で売れば利ざやが取れます。その繰り返しで、輸出したり輸入したりをするうちに、国内外の金額の均衡が取れるということです。
例えるならば、港町で塩を沢山持っている人と、山奥に暮らす人で、今までは塩の値段が何倍も違ったのに、輸送が発達して均衡が取れるのに似ています。ネットで人気、美味しいと分かれば、世界中の在庫がまたたく間に減っていきます。そして世界中で値段が上がります。
6.中国市場がもたらすもの
この記事で、最も重要な情報となります。
1~5までの要因は確かにウイスキーの価格を押し上げるものですが、最後に追い打ちをかけることになったのが『中国市場』です。私は近年の相場が異常だと思い調査をしていたのですが、やはり大陸の影響、つまりチャイナマネーによるものだと確信を得ました。
”もはやグレンドロナックが買える時代は終わった。
カスクは良いですが、飲めるどころではありません。これは投機的に用いれれて利益がでます。最近のウイスキー市場は魔法であり、ここ2ヶ月はブナハーブン18年を購入する700人民元以上で売ることができ、(中略)”
”投稿日時:2022-04-12 09:15
マオタイで遊んでいた人たちが、今度はウイスキーで遊ぶのか。”
”RPWT(筆者):靴やお茶、時計、そして不動産に投機する人もいるでしょう。 今は価格が乱れ、今日はこれが高騰し、明日はこれが倍増する。
tako4 : マッカランのフラッグシップ、先月の21万が45万に。
Ernesto_小红书”
これは一例ですが、雲頂(Springbank)、麥卡倫(Macallan)、格蘭多納(Glendronach)、波摩(Bowmore)いずれも投機的に購入されています。
茅台酒(マオタイ)マネーが流入する?
日本人には馴染みがありませんが、茅台酒(マオタイ)というのは高粱・トウモロコシを原料にする中国の高級蒸留酒です。生産量が限られていて通常のものでも5万円以上で取引されるのですが、古酒となると200万円以上という青天井な価格で売買されています。
中国版焼酎と考えても良い茅台酒は、靴やお茶、時計、不動産と同格で売買されていましたが、このチャイナマネーが日本ウイスキーやスコッチに流れ込んできています。
私はどちらかというと愛国心が強く、中韓露には危機感があります。それでも「日本人は貧乏になった」と実感します。中国のSNSウイスキー界隈を調べてみたのですが、下記のような写真がゴロゴロ出てきます。
これを見て、何ヶ月も感じていた得体のしれない”モヤモヤ”が綺麗に晴れました。
「なるほど!この人達か!」と、相場の気持ち悪い動きの原因が分かりました。山崎だけでなく、マッカランやスプリングバンク、他の銘柄がビットコインのように跳ね上がった原因です。
大陸のウイスキー愛好家は、日本人のように1本、2本ストックするのではなく金の暴力で50本以上、ときに100本以上買い占めをしています。たかが、18年物のウイスキーに平然と1,000万円以上支払っているのです!
当たり前のように何人もの富裕層が大量に購入するので、市場の価格が狂ってしまうのは仕方ありません。
衝撃的だったのが日本にも内通者が多く、山崎の横流しはもちろんですが、330万円のグレングラント60年の抽選に参加して、本国に転売しています。
驚いたことに、当ブログと同じように英国のETFレートを参考にして売買したり、ボトルごとの価格分析を行い先月比を計算しています。日本より投資対象として進んでいます。
ここ半年で何倍にも上がったスプリングバンクの秘密をお教えします。
この写真をご覧ください。日本人ではウイスキーマニアでも、1本10万円のウイスキーを何本も買ったりしませんが、彼らは個人で同一銘柄を何十本も購入します。これが、ここ最近のウイスキー高騰の真相です。
日本のSNSでは、一人がこれほど所有しているのを見たことがありません。
今のこところは、まだ「オフィシャル現行ボトル」と、一部の「ボトラーズウイスキー」だけですので、数ヶ月〜数年すればオールドボトルを収集するムーブメントが起きてもおかしくありません。きっと日本のボトルも買い占められて中国に流れるはずです。
桁外れな数量を買っていますし、10万円以上するシングルカスクも大量に一人で買い占めするのが分かります。
「投資」に行き着かない、日本の転売思想
これで日本で今、何が起きているか理解できたはずです。
日本の転売屋が、「◯◯◯ウイスキーを定価で見つけて、オクで1万円儲かったw」と喜んでいるボトルが、大陸系ブローカーによってバンバン中国に流れて、何倍にもなって取引されているのです。
これを知ったとき愕然としました、もしウイスキー投資を考えているのであれば、2022年の今年は本当に欲しいボトルを早く購入することをお勧めします。
バイト感覚で横行する「山崎の転売」は有名ですが、彼らは重大な見落としがあります。それは日本円が最強だと思っていることです。1万円で入手したウイスキーを2万円で売却できれば、1万円の儲けがでます。
彼らはその1万円を日本円にしているのです!金地金や米国株に変えるならまだしも、円建て貯金をしたり好きなものを買って消費してしまっています。
そのウイスキーが、翌年3万円になったらどうでしょうか?
年利100%という奇跡の現物を、途中で手放して利確していることになります。
上記の記事で、上昇率を解説しましたが「2015~2020年までに山崎18年を定価で買って転売した人」は全員負けです。
今転売しているボトルが今後、価値が下がるのであれば今利確する必要がありますが、まだまだ上がるボトルを利確する転売脳、転売思想が日本では強いです。少量生産の1980年代のウイスキーなんてものは、確実に減る一方で10年ガチホしたら上がり続けるのは目に見えています。
このあたりが日本と中国のウイスキー投資の考え方の違いです。
中国富裕層の影響は計り知れない
中国人の富裕層「100万米ドル(1億2千万円)以上の富を有する成人」は2020年度は約527万9,000人、そして増加を続けています。これは東京都内の成人男性より多い数です。東京都内に住んでいる成人男性の全員が1人ずつ、1億円以上持っている計算になります。かなりインパクトがありませんか?
中国の人口は14億人なので、当たり前かもしれませんが、日本の人口に置き換えると富裕層の多さが理解やすいです。彼ら富裕層の1%がウイスキーが好きで収集したとしても、凄まじい数になります。実際はワインやウイスキーなど洋酒が好きな人はもっと多いはずです。
西洋文化に興味がある若年層・青年層は、ウイスキーの味わいや香りだけでなく、投機対象としても魅力を感じ、今後さらに買い占めを継続すると予想できます。特に美味しい価値のある長期熟成ウイスキーは、今(2022年)でさえ昔のようには買えません。
こうして、「値段高騰でウイスキーが飲めなくなる日」がそう遠くない日に訪れるかもしれません。
免責事項
当サイトの内容は個人的な推測に基づくもので、内容の完全性や、その正確性を保証するものではありません。ウイスキー投資は法律上の制約や損失が発生する場合があります。必ず自己責任おいて入手・売却等をお願いします。利益が出た場合は、確定申告など税務上の申告が必要になる場合もあります、税理士や税務署職員に相談ください。大量の酒類を個人売買する際には、酒税法上の免許や認可が必要になります。