ここしばらく相場の話ばかりでしたので、今回は美味しいウイスキーと判別方法、テイスティングについて解説してみます。初心者向けの記事で、私自身オールドボトルは余り詳しくないので、一部誤りがあるかもしれません。
昭和後期のジョニ黒の魅力とは?
今回は紹介するのは、1980年代後期に流通していたブレンデッドウイスキー「ジョニーウォーカー・ブラック(通称ジョニ黒)」です。
平成以前のシングルモルトは生産量少なく、入手が難しいボトルばかりです。例えば「タリスカー 12年 ジョニーウォーカーラベル」なんかは同じ80年代でも、15万円以上の価格で売買されています。
このジョニ黒は入手が簡単で、状態が良いボトルでもなんと、たったの2~3千円で購入できます。それでいて本格的なオールドボトルを体験できるので、バランタイン12年と並んで入門用オールドに最適な1本です。
オールドボトルの楽しみ方とは?
ウイスキーは瓶に詰められてから、保存状態が良ければ「最大50年持つ」と言われています。そのため、昭和に作られたウイスキーでも適正な保管状態であれば、グラスに注いで楽しむことができます。
「オールドボトルは難しい」と思わせる理由に、保管状態が挙げられます。昭和から平成初期は、洋酒文化も完全に浸透しておらず、贈答に用いられることがあっても適切な保管がされていないこともあります。
例えばキャビネットに並べて直射日光が当たったり、夏の暑い押入れにしまったり、熱や光だけでなく横置きによるキャップ臭のうつりなどもあります。
古酒は半年後に美味しくなる事もある
もう一つ難しいのが、ウイスキー愛好家が「これは傷んでいるな」と判断したボトルでも、開封して半年するとキャップ臭・ヒネ臭が軽減して、華やかな香りが出てくることがあります。
20~30年以上経過したボトルは、様々な外因によって本来の香りがすぐに出てこないことが日常的にあります。
オールドボトルをラベルから読み解く
ラベルを見たときに、最初に見るべきは「ウイスキー特級」です。
1989年までは旧酒税法でウイスキーの関税が高額でした。現在では2~3千円のジョニ黒も、当時は2万円以上だったといいます。海外旅行では多くの人が土産に免税店のウイスキーを持ち帰っていたそうです。
それが消費税施行と同時に、特級制度が廃止されました。従価・従量と課税方式に違いがありますが、別の記事で紹介します。
簡単にはラベルに「ウイスキー特級」があれば1989年以前、前張り・裏張りに「ウイスキー特級」が無ければ1990年以降と判断ができます。個人輸入や海外からの持ち帰りは英文の現地ラベルしかありません。
二次流通を見ている限り、香港経由や日本正規代理店がほとんどですので、海外旅行土産や国内贈答が非常に多かったのだと推測できます。
次に、左ボトルの上部に着目してください。「H.K.D.N.P. 」と表示があります。勘の良い方なら分かるかもしれませんが、H.K.D.N.P.とはHong Kong Duty Not Paidの略です。つまり香港免税品という意味です。
バランタイン12年やシーバスリーガル12年なんかにも良く見かける記号です。
「なぜウイスキーが香港なのか?」それは流通していた時代を考えると分かります。中英共同声明の「一国二制度」50年保障のニュースで話題になった香港ですが、日本統治後の1945年イギリスの植民地に復帰し、その後1997年に独立しました。そのため英国の会社も多く、アジアの貿易拠点となっていたためウイスキーが香港経由で輸入されました。
ラベルの下には、Sole Distributor – CALBECK CORPORATION 75cls.と表示があります。これは、Sole Distributor = 独占販売、コールドベック株式会社による独占販売を意味しています。75clsは750mlの意味です。
1970年代から1980年代後期までジョニーウォーカーの正規代理店が、「コールドベック株式会社」でした。住所は東京都千代田区麹町2-7になっています。オールドボトルを調べるときに、意外にも住所が重要で、サントリーなんかも時代によって異なります。手がかりのひとつになります。
ウイスキー特級にも秘密の記号が隠されていて、右上のY二重丸は横浜関税を意味します。Kは神戸など関税事務所の地域によって変化します。数字はISBNのように許可の順番を表していたそうです。
「なるほど、ってことはインポーターが違うのか」と思いクルッとひっくり返したのですが、どちらもコールドベック株式会社でした。違いは下の従価税率適用の有無です。途中から従価表記が不要になったため、左の方が新しいボトルです、右の方が古いです。制度が改定されて同一会社でも登録し直したのかもしれませんね。
国内仕様と香港経由に味の違いがある?
ジョニ黒には「タリスカー」、「ラガヴーリン」、「モートラック」、「カーデュー」を中心に40種類以上の蒸留所の原酒がブレンドされています。
実際にそれら蒸留所の1970年代を全て集めると余裕で100万円以上になってしまいます。ブレンデッドはお得な飲み物です。
実際に飲んで見ると、ボトルによって味が違うという衝撃的な事実を発見しました。
色を比べると差が無いように見えますが、実際には全くの別物です。
実際に2本を飲み比べすると、別のウイスキーとしか表現できません。どちらも美味しいのですが、パワフルで煙臭いブレンデッドと、シェリー樽の甘みが出ているブレンデッドと対極の特徴があります。
液面の高さは同じでヒネもありませんし、キャップの金属臭もそこまで無いロットでした。完全に個人的な予想ですが、この違いは代理店や経由国によるものではなくボトリング時期の違いだと思います。
例ですが1980年と1989年のボトリングではラベルが同じでも、中身の構成原酒に9年の違いが出ます。全て12年熟成が詰まっていた場合は、前者は1968年に蒸留した原酒、後者は1977年に蒸留した原酒です。
この時代のブレンデッドウイスキーは工業製品ではないので、A,B,C,D,E,F…といった40種類以上の蒸留所の樽を同一比率で作っている訳ではありません。数万樽以上ある中から、そのロットのブレンドを仕上げています。
時代によって樽材や大麦の品種も異なります。マッカランの場合だと1950-1968年はゼファー品種、1968-1980年はゴールデンプロミス品種といった具合に使っている麦芽も異なります。
この事から、厳密には「1985年の3回目製造のジョニ黒が美味しい」といった現象があるのだと想定できます。ボトルには年数を示すものや、バッチを示すものが無いので、証明はできないのですが実際にはボトルごとに味が異なります。
2022年現在のジョニ黒を「コンビニ」「スーパー」「酒販店」で買っても、おそらく味は同じです。機械による量産体制も整い、工業化による品質の画一化で世界どこでも同じ味になっていると思います。
1960~1970年代のオールドボトルというのは、有名なジョニ黒であっても年数によって味が異なり、それが古酒の魅力なのかもしれませんね。
オークションでは、1980年代であれば1本2~3千円、さらに古い1960~1970年代でも6~9千円で入手ができます。シングルモルトウイスキーが高騰してしまった今だからこそ、黄金期の手頃なブレンデッドを楽しむのも良さそうです。
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