ここまで膨らみ上がった国産ウイスキー古酒について、正確に全貌を掴んでいる人は少ないのではないでしょうか。価格高騰の原因となった中国人富裕層さえも、雰囲気で投資をしているように見えます。
山崎の限定ウイスキーには、年数ごとにリリースされていた「Vintage Malt(ヴィンテージモルト)」以外にも「The Cask of Yamazaki(ザ・カスク・オブ・ヤマザキ)」というシリーズが発売されていました。
種類が多いので、今回は昨夜落札された「The Cask of Yamazaki 1980 – 2003」に関連する銘柄について解説していきます。
The Cask of Yamazakiシリーズについて
通販を担当する子会社の「サントリーサービス」の数量限定品として、2003年の11月11日に「シェリー カスク 1980」「ホッグスヘッド 1990」「ホッグスヘッド 1993」が発売しました。
シェリー カスク 1980 15,750円(消費税込)
ホッグスヘッド 1990 9,450円(消費税込)
ホッグスヘッド 1993 7,350円(消費税込)
同年の12月3日には追加で「ホワイト オーク カスク1980」「シェリーカスク 1991」「バーボンカスク 1993」が発売されます。
ホワイト オーク カスク 1980 15,750円(消費税込)
シェリー カスク 1991 9,450円(消費税込)
バーボン カスク 1993 7,350円(消費税込)
このように、当時「山崎蒸溜所シングルカスクウイスキーの第1弾」と称してシングルカスクシリーズを発売していました。いずれも非常に人気が高く、発売してからたった数ヶ月で売り切れしていました。そのため第二弾、第三弾とロット違いでリリースしていました。
サントリーのマスターブレンダー(名誉チーフブレンダー)というと、輿水精一氏が有名です。このThe Cask of Yamazakiは、実は輿水氏ではなく、山崎蒸溜所のブレンダーである仲沢一郎氏が中心となって企画を行ったシリーズです。
同氏は「ヴァッティングした方が美味しいウイスキーができる」と当初、シングルカスクに対して消極的な姿勢でした。1000種類以上の樽の中から厳選したのが、上記の紹介しているボトルです。
The Cask of Yamazaki シェリーカスク 1980年について
当時の資料を読み返すと、山崎蒸溜所に関して「秘密とされている」真実が明らかになります。
「なぜ、山崎蒸溜所は1923年に設立されたにも関わらず、シングルカスクは1980年代後半からしかリリースされていないのか?」
ウイスキーマニアやバーテンダーの方でも真実を知っている人は少数です。サントリーが隠しておきたい答えは、当時の資料から明らかになります。
昔の資料から分かるのは、サントリーが独自にシェリー樽のスペックを指定して安定して入手できるのは1980年代半ばからであったそうです。
逆に、それ以前の時代に調達した樽は、品質が安定せず、上質なものとそうでないものが混在していたそうです。この資料には、「The Cask of Yamazaki シェリーカスク 1980年」が、山崎蒸溜所46号庫3段に眠っていたと書いています。
スペックは次の通りです。
ボトリング本数は300本ですが、同時期の別樽のホッグスヘッド1990は数量が192本です。カスクストレングスのため本数がマチマチだったことが分かります。
1923年に山崎蒸溜所が設立されたにも関わらず、1980年代前半より昔のシングルカスクがリリースされていない理由は、「貯蔵されていた樽」これが隠されている事実です。
そのため2003年当時に1万5千円で販売されていた、この「The Cask of Yamazaki 1980」は存在する山崎ウイスキーの中でも最も古い部類のシングルカスクとなります。
The Cask of Yamazaki シェリーカスク 1980年の価格は?
2010年以前は3万円台での出品がありましたが、2010年以降は激減します。出品は7件で、2015年には22万円で落札されていますが、2018年にはいきなり80万円台まで上昇します。その後、なんと半額近い45万円台での落札がありました。
ビットコインのように、ブームが去ったと判断されたのか、それとも一時的な買い圧力が下がったためか相場が大きく下がりました。
そして昨夜、2022年6月16日に418万円で落札されたことになります。
どのタイミングで購入しても、車1台分以上の利益が出てしまっていました。
もしも2003年にネット通販を見て、9,450円で購入していた場合は417万円の利益となり信じられないシンデレラボトルとなりました。
ついでに、「The Cask of Yamazaki 1980 ホワイトオークカスク」もチャートを出してみます。
2014年には97,000円での落札がされています。その後も、シェリーより定価が高いのですが不人気ゆえに2年前まで40万円を切って落札されています。
今、出品されたら何円になるのかは不明ですが、200万円程度のプライシングはされそうですね。
The Cask of Yamazakiについて初めて詳しく調べてみましたが、ひょんな事から「山崎蒸留所の樽事情」を知ってしまいました。今では伝説的な扱いを受けていますが、山崎40年、50年などをバンバンリリースできない理由の一つに貯蔵数とシェリーカスクの調達がありそうです。
サントリーの所有する貯蔵庫は当時3つありました白州蒸溜所のそばにある「八ヶ岳エージングセラー」と山崎蒸溜所から20kmほどにある「近江エージングセラー」は有名ですが、当時は青森県に「野辺地エージングセラー」が存在しました。
野辺地サントリー工場(注文の多い料理店か?) 2006-06-16 23:18:52 | 下北半島
こちらのブログに、非常に面白い文章が残っています。
1980年代に、サントリー第3の工場として野辺地町に建設が決定され、造成工事等が行われ、地元はかなり期待していたようです。
当時の国産ウイスキー需要は非常に低く、まさか今のようにV字復活するとは思われてもいませんでした。もしもタイミング良く、30年前にブームが着ていたら…。実際に途中まで造形工事までされていた青森県の「下北半島」に、もう一つの蒸留所が完成していたのは間違いありません。
「サントリー シングルモルトウイスキー野辺地」
こんな名前を持つ、伝説の国産ウイスキーが作られていたかもしれませんね。
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