ニュースやプロの意見を交え、ウイスキーの今後について現状をまとめてみます。
日常的に行っている「チャート分析」は、過去と現在の価格を整理したもので、短期的な相場を予想するのにはたいへん便利なツールです。ただし生産量と消費量、景気やブームが加味されていないため、5年、10年後の長期価格を予想するには向いていません。
これから数年以内に起こる出来ごと
CNBCによると、スコッチウイスキーの製造に必要な原料が、6%から最大37%の価格上昇。また輸送費が2018年と比べて68%上昇しているとレポートしています。(デリーCNBCTV18より)
実際にスコッチウイスキー輸入会社の話では、現地でのガラス瓶の調達が遅れていて、ボトリングをするのに依頼しても数ヶ月〜半年以上も待たされてしまうと話をしていました。
話を聞く限り、原酒が枯渇している蒸留所もあるけれど、実際にはボトリングして英国内の出荷、また海外への輸出が詰まっているのが現在起きていることのようです。
価格というのは需要と供給によって決まりますので、上記の影響が改善されて大量に日本に輸入されるようになれば価格が落ち着くと推測できます。ですが同時に円安ポンド高、英国内のインフレ、また賃金や穀物価格の上昇なども考えなければなりません。
つまりウイスキーの原酒自体はあるけれど、原材料や瓶詰めにまつわる経費が上昇するのと、輸送コストや為替差によって価格が下がらないケースもあるということです。
スコッチウイスキーの人気に陰りが…
英Whisky Magazine寄稿者、豪SMWSソサエティ会長もである、Whisky&Wisdom主賓は、自身のブログで以下のようにウイスキーの現状を投稿しています。
つまり全体の総数では販売数量が減っているのに、プレミアムレンジの売れ行きが良いために総合的な指標では右肩上がりを続けているというものです。
NASの安いウイスキーが売れ行きが落ち、プレミアムレンジ(高級価格帯)の3万ドル(=約400万円)ウイスキーの売上でカバーしているというのです。
この話には続きがあります。
「今後ジャパニーズウイスキーは需要が伸びる?」と疑問を感じていたことを、ばっさりと切り捨てて解説をしています。
つまり、ウイスキーにも多様性が出て日本のウイスキーが脚光を浴びたようにまた、アイリッシュウイスキーの復活や米国、台湾、インドのウイスキー。それだけでなく、ラム酒やジン、テキーラ、コニャックまでが続伸しているというのです。
確かに品質の落ちたスコッチウイスキーを割高で買うのであれば、他にも数多くの蒸留酒が手に入る時代ですので、ネットで情報収集をして新興国のウイスキーやラムなどにシフトしてもおかしくありません。
Is the tide turning on the Scotch Whisky industry?
スコッチウイスキー業界の潮目は変わったか?
と題された、この記事の中で最も重要な部分は「スコッチの販売におけるBRICs市場」の解説です。
”10年前、スコッチ・ウイスキー業界はいわゆるBRICs市場(ブラジル、ロシア、インド、中国)にしっかりと照準を合わせ、これらの地域での事業拡大に対するこれまでの障壁が取り除かれることを前提にしていた。”
10年前にゴールドマン・サックスが提言したBRICs市場(新興市場国)を対称に生産と輸出増加を計画しました。記事にあるように、ディアジオやペルノ・リカールは設備投資を押し進め、生産量も増加されました。
中国でもウイスキー作りが本格化
これだけでも供給量が十分すぎるほど増えているところに、ディアジオは昨年、中国雲南省に7500万米ドル(100億円)をかけて巨大なモルト・ウィスキー蒸留所の建設を決定しました。
今では日本よりも重要なスコッチウイスキー市場となった中国ですが、今後は英国の巨人であるディアジオが中国に出向いてウイスキーを生産する訳です。これに恩恵を与ろうと日本の新興蒸留所のように中国クラフトウイスキーブームが訪れてもおかしくない状況になりました。
目下サントリーも、知多蒸留所に100億円を掛けて設備を一新しました。2014年頃から山崎や白州を急遽増産して、2019年には約60億円を投じ4万樽の原酒を熟成する貯蔵庫を増設する近江エージングセラーの増設に着手しました。ニッカやキリンなど、その他の国内蒸留所も大量に増産しているところでしょう。
記事にある、「ジャパニーズウイスキーはスコッチ愛飲家にとって現実的で手頃な価格の代替品として復活することでしょう。」という日も近いのではないでしょうか。
それがNAS(ノンエイジ)を指すのか、年数入りを指すのかは分かりませんが、中国の蒸留所でも大量生産されて、スコッチウイスキーも大量に出回るころには、現在のように日本ウイスキーの需要(買い支え)はないかもしれません。
シングルモルトウイスキーは、1960年代に小さなブームを起こしてから1970~1990年代と氷河期を迎え、文字通り閉鎖した蒸留所も数多くあります。今では500万円で売られている「Black Bowmore Edition 1」は80ポンド(1.3万円)で売られ、160万円で売られている「Macallan Private Eye」は36ポンド(6千円)で1996年に記念販売されていました。
そんな氷河期を超え、2000年頃から復活の兆しを見せます。そして2015年頃から日本ウイスキーも、スコッチウイスキーも空前のブームが再来しました。
2010年まで、10万円もする高級な国産ウイスキーを誰も見向きもしませんでした。通年で山崎25年の在庫があったほどです。
ウイスキーブームの波と今後
米国が主導する世界景気のように、景気循環の波(サイクル)がウイスキーにもあります。限られた人数の飲み手=需要に対して、過剰な供給量が市場に出回れば、今のような過剰な価格は是正されそうです。
当初計画されていたBRICs市場(ブラジル、ロシア、インド、中国)の中でロシアが輸出禁止され、中国やインドは自国への生産を開始しました。
このことから、長期的には普及品のジャパニーズウイスキー価格は下落、山崎NASなど安い価格でコンビニに出回るようになり、ごく一部の本数が少ない長期熟成品だけが価値を持つ時代が来ると予想できます。
また、スコッチウイスキーも同じように大量に原酒がダブつく時代が”再来”しそうです。それでも、これだけの円安ですので、国内での価格は高止まりそうです。
ひとつは、「低価格帯のボトルを大量に集めるのは得策ではない」ということ。もう一つは、「本当に価値を持つ、生産数や年代が限れれたボトルが上がり続ける」ということです。
今後、5年10年をみて物価上昇で含み益の出るウイスキーは、まだまだ出ると思いますが、「SNSで話題だから買う」「コンビニで山崎NAS見つけたから買う」というやり方では損失が出るかもしれません。
どちらも当たり前の事ですが、情報を整理するほど今後は増産と過剰生産により、ウイスキー投資に厳しい局面も出てきそうです。
これからのブームやトレンドを予測するのは難しいことですが、自身の所有するポートフォリオを慎重に選ぶ時期に来たことは確かです。
免責事項
当サイトの内容は個人的な推測に基づくもので、内容の完全性や、その正確性を保証するものではありません。ウイスキー投資は法律上の制約や損失が発生する場合があります。必ず自己責任おいて入手・売却等をお願いします。利益が出た場合は、確定申告など税務上の申告が必要になる場合もあります、税理士や税務署職員に相談ください。大量の酒類を個人売買する際には、酒税法上の免許や認可が必要になります。